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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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廃墟のロベールと廃墟になったルーヴルへの妄想

ユベール・ロベールの話題が出たので、彼について最近考えていたこと。
 知ったかぶっているけど、あくまでも根拠のない妄想なので、お信じになられぬよう。。。

 そもそもユベール・ロベール(1733-1808)誰って人のために。
 18世紀、アンシャンレジーム末期から革命期に活躍したフランスの画家。

エリザベト・ヴィジェ=ルブラン<ユベール・ロベールの肖像>

 建築画、とくに古代ローマの廃墟を描いた風景画、或いは廃墟や古代モチーフを自在に組み合わせた空想画が得意。
  
左:ユベール・ロベール<コートを着た男と僧侶たちのいるティボリのシビュラ神殿>
右:<ローマの廃墟>
 ポンペイなどの発掘によって古代・古典がブームになり、ローマの廃墟が流行していた時代。その流行に画家自身も賛意を表明している数々の作品が魅力。そんな訳で、その絵は当時の趣味が透けて見える感じで、めっぽう面白い。というかその趣味の為に画想を尽くして、皆の好きなもの全部ねじ込んでくる辺り本当に面白い。
 個人的には、気合いの入った油絵より、力の抜けた素描のが上手いと思うのだけど、ともかく「廃墟のロベール」の異名をとるほど廃墟の画家だったとか。
 かつては貴族やお金持ちがパトロンだったその一方で、革命期に投獄されながらも、がっつり生き抜く堅実さを併せ持つ。
 晩年は未来のルーヴル美術館の絵画コレクションの管理人としても活躍。
よろしければロベール展の感想もご参照ください。

で、私のお気に入り、「ルーヴルの廃墟」再び。
   
左:<廃墟となったルーヴルのグランド・ギャラリーの想像図>
右:<ルーヴルのグランド・ギャラリー改造計画案>

 ロベールがルーヴル美術館の学芸員(的な仕事)をしていた時、建物を改修するなら右の絵みたいな感じがいいなって描いた絵の対作品として、何故か描いて見せたのがこの左の廃墟ルーヴル。

 彼が得意としたローマの廃墟のように、崩れてしまっている近未来?のルーヴル。
 そこでは、すっかり廃墟に馴染んで煮炊きする人がいたり、物見高い観光客が、あちこちに転がるルーヴルの展示品だったと思しき彫刻を眺めていたりします。
 まるで、ロベール自身が得意としたローマの廃墟と、その周辺にいる地元人や観光客たちがいるというイタリアの風景画の自己パロディみたい。
 
左:<廃墟の下でスケッチする画家のいる川辺の風景>
右:<廃墟の奇想画>

 廃墟のルーヴルの中には、一つだけ完全な状態で残っている彫刻があって、それがかの有名なベルヴェデーレのアポロ。その足元にはラファエロの胸像(だそうです)が置かれていて、画家が地面に座り込んでデッサンをしています。
 これによって仄めかされるあるメッセージ。
 即ち、近代の建物ルーヴル宮が廃墟と化して滅びたあとも、光を浴びる古代彫刻、ベルヴェデーレのアポロが屹立するという「古典芸術は不滅だ!」っていうのが一般的な解釈。


 以下恣意的な解釈です。解釈というか、ただの遊び。

<今日までのあらすじ>
その1、廃墟についての反省
 廃墟っていうと、こう、「時の流れの無常さ、破壊されつつも遺されたものの偉大さ、自然に還りゆく美しさ」みたいな趣を誘うものだと思うのですが、でもこの絵って、ちょっと廃墟ラヴなあまりのおふざけじゃないの? モダンな建物を廃墟化したいだけっだたとか。登場人物のんびり暮らしてるし、ミケランジェロの有名な彫刻がぶっ壊されて悶えて転がってるのがちょっとコミカルかも。
 廃墟=無常=確実な死みたいなそんな悲壮感がこの絵には表わされているんだろうか?
 ……とはいえ、廃墟から無常感を排除する解釈も、無理があるよね。

その2、廃墟のロベールへの妄想
 まてよ、この絵は1796年、つまり革命の後に描かれたもので、王侯貴族にもパトロンを持っていたがためにサン=ラザール監獄にもぶち込まれていたロベールの自己弁明なのかしら。
 王宮(=王権)壊れちゃってるよ! それでも古代ローマ(王制を打倒し共和制を始めた)の偉大な遺産は光り輝くよ! っていうのはどうかな。
 これは恣意的な過剰解釈。


 で、今日はこれまでの妄想に、やはり恣意的な新妄想を重ねます(笑)

 この画家によってスケッチされている古代の傑作ベルヴェデーレのアポロ。
 現代の建物が時の作用によって廃墟となることと、古代の彫刻がなおも立っていることと、そのコントラストを狙っているのは確かでしょう。
 その現代と未来のコントラストの中で、同時代の普通の人々が、まるで古代の遺跡の観光客みたいに、あるいは観光地で暮らす現地人みたいに、ナチュラルに歩き回っていて、ルーヴルが廃墟とならざるを得なかった何かしかの悲劇になんら関わりなく存在しているのが面白い。

 で、この準主役ともいえる特別に有名なローマの彫刻。本物はもちろん18世紀当時もローマにあって、今もヴァチカン美術館に鎮座しています。
 ここで描かれているのは、色からいって大理石ではなく等身大にコピーしたブロンズ像でしょうか?
 …それとも、ベルヴェデーレのアポロは、古代ギリシアのブロンズ像を、その後のローマ人が大理石で模刻したものなので、ローマより古い本当に本物のギリシア時代のオリジナルのブロンズ像のつもりだったりして。

 はて、ロベールがこの絵を描いた1796年。
 この年、ナポレオンはイタリアを制圧。イタリア遠征の戦利品としてベルヴェデーレのアポロを筆頭に古代美術コレクションをフランスに渡すように要求します。
 で、例のアポロ像は、ナポレオンがルーヴルに持ってきちゃった後、1798年から1815年の間、ルーヴルに収蔵されていました。(そしてナポレオン失脚の後、イタリアに返還されます)
 おそらくは、1798年にはこの絵の通りにルーヴルへやってきたアポロ像。ちょうどこの時期だけはフランスにあったのでした。

 ナポレオンのイタリア征服から、戦利品がルーヴルにもたらされるまでおよそ2年……。
 ルーヴル美術館の絵画管理人をしていたロベールと、或いはこの絵を見る同時代の人達は、1796年の段階で、ベルヴェデーレのアポロがフランスのものになるって事をどれだけ意識していたのかな。
 もし知っていたとしたら、とたんにナポレオン万歳感が出てくる気がするんだけど……。

 はっ、まさか「ベルヴェデーレのアポロ、ルーヴルのコレクションに是非欲しいな~~(お願い!ボナパルト☆)」っていう願望の表れ? ――多分無い。ふざけて考えすぎました(笑)

 むしろ、まろりーはこの絵に描かれたアポロが、何で今現在一般にイメージされる(と思しき)白い大理石でなくて、緑のブロンズ像?なのかの方が気になってきました。っていうか、何で緑なの?錆びてるの?
 こういう素材違いのレプリカが実際に王室コレクションにあったとしてもおかしくはないかな。でも古代彫刻といったら白だろ!(考古学的には違うらしいですが)

 ちなみに、本物っぽい白いベルヴェデーレのアポロが描かれたルーヴル図もあります。さり気なくラオコーンもいるし、これも後々イタリアからかっぱらって来るのかなー?

ロベール<ルーヴルのグランドギャラリーの想像図>

 さて、同時代でもナポレオンのこの「蛮行」に眉をひそめる人もいたそうです。
 ローマ彫刻はローマにあるから魅力的なんであって、パリに移すことでローマ彫刻からローマという場を奪うのはいかがなものかって、現代にも通じる結構まともな意見。(詳細知らないので話半分に…しかしこの良識的な意見にはちょっと感動しました。)

 はてさて、ローマ大好きユベール・ロベール。
 フランスでも傑作が見られることを喜んだのか、ローマの遺産がローマを離れることを心配したのか、それとも何も考えていないのか、本心やいかに。


 しかし。上記妄想を覆しかねない気になる記述に出会いました。まあ、初めから根拠無しなので覆るも何もないのだけど(笑)

 1778年、ロベールにはルーヴル宮の一室を使用する許可が与えられました。そしてその後、彼はルーヴルにアトリエを構えます。

 で、その4年後、革命迫る時期のパリの様子を辛口活写した「ダブロー・ド・パリ(1782年出版)」によると。(十八世紀パリ生活誌―タブロー・ド・パリ―(上)1986年 岩波文庫 著:ルイ=セバスチャン・メルシエ 訳:原 宏より)

  まるで廃墟として建てられたかのような、あるいは蛮族の憤怒の手からやっと逃れたとでもいうような、このルーヴル宮……(p79、L.7)
  数人のアカデミーの画家が、ここでアトリエを構えているし、無数のねずみどももここを棲み家にしている。(p79、L.14)

 王宮とはいえ廃墟呼ばわり。
 ルイ14世が17世紀半ばに改築しようとしたら、何かやる気が無くなって、半分手をつけたまま18世紀末まで放置してたそうです。
 壁作ったけど屋根掛けなていとか。既に建てられた部分も修復されることなく。つまり半壊状態(笑)で、勝手に一般人がお店開いちゃったり、勝手に一般人が住みついちゃったり、勝手に一般人が増築しちゃったり。
 ロベールはちゃんと王様から許可貰って住んでますよ!念の為。

 ……きめつけは良くないけど、この廃墟ルーヴルで鼠と住む画家に廃墟のロベール含まれてるだろ。

 アレ。
 何だ、そもそも無理に廃墟化しなくても、この時代最初から結構廃墟だったんじゃん、ひょっとして。
 この絵って案外リアルだったの(笑)

 今までの妄想の前提テーマ(未来に廃墟になっちゃうルーヴル)が全部ひっくり返っちゃうよ。
 まあ…タブロー・ド・パリに出版された通り、ルーヴルと廃墟を結びつける発想は、どうやらロベールが描くより先にあったようではあります。

 歴史深いルーヴル宮殿があまりに廃墟でフランスの恥状態だったために、ロベールの18世紀、ルーヴルを今のような美術館にする計画とともに、数々の改修計画が立てられました。
 その一環で、改修後のルーヴル美術館の空想画を描いたロベール。そしてその空想が遥か未来にまで飛んで行ってしまったかのような廃墟のルーヴル。

 実際は、この想像図とは逆で、アポロはルーヴルに無く、建物はロベールの改修計画以上に綺麗になりました。ロベールにとっての未来は我々にとっての未来でもあり続けています。

 私の妄想はともかく、モナリザ級の名画ではないかもしれないけど、やっぱり面白い絵です。

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