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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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うらわ美術館 ルーヴル美術館の銅版画展 カルコグラフィーコレクション感想

うらわ美術館に行ってきました。

 テーマはルーヴル美術館の版画。……版画なの? ルーヴルってあんまり版画で主張している感じがないというか、版画のイメージがないというか。そりゃもちろんルーヴルだって、版画は沢山持っているだろうけど。

 写真の無い時代、あるいは今ほど鮮明でない時代。名画を一般の人に伝える主なメディアは、大量に印刷出来る銅版画でした。
 ルーヴルにはそんな版画や銅板画の原版を収集していて、その原版を使って今日でも印刷を行う「カルコグラフィー室」なる専門部所があるのだそうです。

 その名画の複製版画を、新たにこの展示の為に刷ったものを含め、130点を並べます! という内容です。
 そう、銅版画。
 百年前の原版で、現在も百年前とだいたい同じ画を得られるもの。
 大体というのは、本来柔らかい銅版はプレス機で刷る度に版が磨耗に潰れていくからで、現代ではそれを防ぐために、表面を薄く鉄でメッキしてあるのだそうです。へええ、そんなハイテク?な裏技があるんだなぁ。

 さて、版画というと多少マニアックかも知れませんが、展示されているのは、とてもポピュラーな名画の複製版画です。
 「創造性の無い」複製版画だと侮るなかれ、版刻師の詳細が分からないのが惜しいほどの本気な出来栄えで、モナリザだとか本物に似せるためのあの手この手の技法がものすごく楽しい。

 どれも素晴らしい再現率でしたが、銅版にしやすそうな名画もあれば、そうでなさそうな名画もある。
 常に油彩の元ねたと比べることで、制約の多いはずの銅版画が、油彩の技法にどのように挑戦するか、すごく良い対比になっていたと思います。


 因みに、輪郭線の無いぼかし表現が肝なモナリザはあんまり似てなかったけどね(笑)

 大胆な筆致のまさかのフランス・ハルスとか。
FransHalsTheGipsyGirl.jpgフランス・ハルス〈ジプシー女〉
 銅版画は、点と線の白黒で表現しなければならないので、油絵ならではの荒く分厚い筆致を再現するのは難しい訳ですが、ものすごいハルス感。
 これはかなり感動した。
 しかもあれです、版画というのは、左右が反転して印刷されるから、原版は逆に彫られている訳で、模写する技術力半端ない。どうやってやっているんだろう。

 ロココ絵画のハレーションぎみの輪郭の柔らかさだとか遠景のぼけ具合だとか。
 ヴァトーのルーヴル版のシテール島の船出(この絵はシテールに向かう場面なのかシテールから去る場面なのか議論の分かれるところ。版画のタイトルはシテール島にむけて出発してたように思う)とか、行き先の風景のファンタジックな雄大さがかえって分かりやすく強調されて格好良かった。

 近現代になると、そもそも絵画が平面的になってきて、ますますそっくりに(笑)
 レオナール藤田とか、本人が版画書いたとしか思えない。
 いや、もう写真印刷の技術とか使ったりするのかな? それとも完全に手描きの模写なんだろうか…分かりません。

 先に版刻師の詳細が分からないのが惜しいと言いましたが、何人かの名前が繰り返し出てきて、それぞれの人に得意分野があるみたい。
 1人名前をはっきり覚えて帰るほど気に入った人がいて、アルフォンス・ルロワさんというらしい。

 ルロワさんは、巨匠たちの数々の素描を銅版に再現しているのです。
 かなり銅版画離れした、本物とみまごうばかりの、チョークや淡彩の繊細な表現。
 書き直しの跡まで写している!

 気になって「Alphonse Leroy」などでグーグル検索を掛けてみたところ、オークションサイトで2,3の銅版画が当たりました。

 そうしたサイトによると、技法は「クレヨンマナー・エッチング」、「スティプル・エングレーヴィング」などと書かれていました。

 どちらも詳細は知らないのだけど、クレヨンマナー=maniere de crayonというのは、細かい点描により、チョークで描いたような効果を出す技法。
 スティプル・エングレーヴィング。。。やはり細かい点描によるハーフトーンでぼかした陰影を出す技法。(だと思う)
 どちらも多分、細かい棘のたくさん付いたビュランやローラーで、細かい点々を付けていくもの(だと思います←超曖昧な認識)。

 この展示でも多分、これらの技法で刷られたものだろう。

 割に安価で不特定多数の人に向けたメディアたる銅版画。
 そのような大衆的なメディアとしての役割は、写真やテレビにとって替わられたけれど、現代人がテレビをより現実に近付けようとしたがるのと同じ気概で、銅版画の時代の人たちも、技術力を磨いて来たのかも知れない。
 より表現力を増すための数百年の工夫というか執念の一端が複製版画に見ることが出来ます。って大袈裟言った(笑)

 しかし銅版画って本当に奧が深い。
 銅版画に不可能は無い。
 銅版画の無限の可能性を感じられました。

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