近美の現代美術展:
現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 感想
個人コレクターの蒐集品展で、頭を使って刺激的。
オルセーはお祭り感も一寸あるんだけど、近美のはアグレッシヴなタイトルとポスターの割にテンションは低くて、じっくり考えて味わう感じ。
でも難解では決してなくて、暴力的でも自己満足的でもなく、趣味が良いものばかり。
いや、このCM、内容と全然マッチしてない気がする(笑)
美術品の値段を説明し、美的な価値と市場の価値は適正なのか問うてくるキャプション(笑)
裏には高価だからいいってもんでもないよね! という行間がありそうな書きぶり。実際そんなこと書いてないけど。
でも、今一番の値をつけるという中国のサンユウの絵はなかなかに良い絵で、誰が何処に飾っても趣味や人格を疑われる事の無い上品かつ人間味のある絵。
ほどよく保守的というかね。美術史的な価値のほどは勉強不足で分からないけれど、市場価値はあると思う。
つまり買いやすい。お金持ち中国の愛国心だけで高騰している訳ではないと思う。…まあ、ある程度はあるだろうけど。
キャプション曰く、コレクターは浴室にお気に入りを飾るといい、今回の展示品のコレクターは、ぱりっとした女性の絵を飾ってるそう。
私ならロスコにする。今展示の癒し系No.1。オレンジの色が塗ってあるだけの絵なんですが。お風呂をロスコルームにしたい。
このロスコのある部屋は正確なジャンル名称は知らないけど、「塗ったくり的」な作品ばかり集めている。ここの部屋面白かった。
白黒の海の写真。雲のない白い空と静かに波立つ黒い海の2色に真ん中から画面が分かれている。空と海の境目は霧がかってぼやけていて、遠目にみると抽象絵画みたい。穏やかなロスコに比べて、寂寥感がある。
大きな画面に大きな板か何かで絵の具を平らに伸ばて何層も重ねたものなど。解説には「職人的」とあったけど、ただ塗るだけでも本当に職人的な技巧が感じられます。そして、ねっとりした絵の具の、自然に出来た色むらの隙間から幾重にも重なって下の絵の具が見えて、面白い景色になってる。
部屋は変わって。
いいのか悪いのか、私には何が描いてあるかは分かりませんが、本物の(笑)抽象絵画で、タイトルは無題だかちょっと忘れたけれど、脳内タイトルは「チョークで汚れた黒板」と「ノートの落書き」。何を言いたかったのかな。
緑の木々とそれを反射する水の上に、船が浮いている。そしてそこからずるりと緑色の人がこちらを向いて船の縁に身をもたせかけている。緑色の貞子みたいな。怖いにも程がある。
そして、マスコットキャラクター?のヨガポ-ズの金のお姉さん像。ヨガといってもかなり上級者向きの無関節でとんでもない体勢。均整の取れた古典的とも言える体形と、この人間離れしたポージング(そして女子的にも実際人前でやれと言われたらちょっと……なポーズ。もちろん服来てるけど)のミスマッチが挑発的で面白い。
高さは3、40センチほどで、案外小ぶり。コレクター宅では、猫足の割と古典的なテーブルの上に置かれているらしいけど、…結構はまってるんだよね。
2体あって、片方は素材に金としか書いていない。わー持ってみたい。中身詰まってて重いのかな、それとも実は中空で軽いのかしら。
最後にある囲碁の石の写真が、お洒落で良かった。縦横1メートルくらいの真っ白い背景に、絶妙な配置の白と黒の碁石だけを真横から撮る。多分、ある一点だけにピントが合っていて、手前や奥の碁石は少しぼやけている。
白と黒と、影の淡い灰色と、いくつかの規則的な楕円の重なりだけしかない抽象なようでいて碁石という具象的な写真の四枚組。
無重力な軽快さとポップなスタイリッシュさ、削ぎ落としたモノトーンと、人工的な石の輪郭の固さとピンぼけした楕円の柔らかさと、さっぱりとしつつ、さりげなくちょっと高雅な精神と、うーんいいなぁこれ。
やー、いいもの見たなあ。