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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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国立西洋美術館の指輪展 感想

正式名称 橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代まで ― 時を超える輝き

 指輪と言えば女性用装身具だと思いがちだけど、実は実用的な印章だったりお守りだったり、宗教的なものだったりと、デザインと用途が多様で面白い。
 そして、古代から現代まで、歴史が超古い。
 展示では、概ね時代ごとに工芸技術の発達(あるいは衰退と復興)や、デザインの流行が分かるよう並べたり、用途で分けたり、同時代のドレスと合わせたり、色々なアプローチ。

 それで分かるのは、指輪って、指に嵌めるものという決まったフォームがあるのだけれども、その目的の為に、何千年の間いつでも、人間の技術と想像力のありったけを小さな輪っかへ詰め込んできたということ。
 限られた形に何らかの思いを乗せた物体は、十分に詩的であり、一つの指輪は確かに物語を生み得るものだと、納得出来る展示でした。

 それなので、お土産物屋さんには、そんな指輪が欲しくなっちゃった人の為に沢山の指輪や、アンティークな雰囲気のグッズや、トールキンやニーベルンゲンの歌やケルトやゲルマンの神話の本が置かれています。
 お土産物屋さんの商魂もなかなかの見物(笑)

 指輪というものは、指にはめるという用途は殆ど変わらないので、共感を呼びやすいものだと思う。歴史的なことやデザイン的な優劣は分からなくても、もし自分がはめたらとか、もしこんなのがアクセサリーとして売っていたらとか、容易に想像することが出来て、遠い昔の遠い国のファンタジーでありつつも、現代の日本にも繋がっている。
 いやもう、ファンタジーです、本当。ニーベルング買いそうになった(笑)

 指輪はざっくり古代から始まります。
 エジプトのお守りスカラベの指輪とか、アメジストが酔いに効くということで、バッカスの顔が彫ってあるローマ(たしか)のとか。
 これに限らず、どれもこれも、造形がすごく細かくて、本気で見たい人は単眼鏡が欲しくなること請け合い。
 そんな職人の超絶技巧も楽しめます。

 ネロ帝の母の顔(かなり立体的でリアル)をあしらった指輪とか。太さからいって男性用なの? イギリス女王の顔の細密画の指輪と同じ記念品みたいな用途なんだろうか? それとも、政治的なごますり用?
 ローマ法王の指輪がどれよりも巨大。装飾品というよりは権威の象徴だそうで、指に嵌めるにはいかにも重そうだし、嵌めたらトレーニング用か殴る用の武器にしか見えない。
 ヒキガエル石という魚の化石の石は、茶色くて地味だけど、身に付けると何か効用があるとかで(忘れた。毒を感知するとか病気にならないとかそんなの)中世人気だったそうです。
 そして指輪といえば、印章の彫られた指輪。大事な手紙を書いた後、この指輪をおもむろに指から外して、溶かした封蝋に押しつけるってやつですね!
 いや、実際にそうやって使うかは実は知らないけど。でもそういうのだよねーあー浪漫だわー。
 そんな実用的なものの他に、もちろんキリストが描かれたり彫られたりする宗教的なものも。やっぱりお守りかな。

 18世紀末から19世紀初めあたりに流行ったという、大振りなボート型の指輪が沢山。このボートに宝石を散りばめたり、エナメルで飾ったりする。後世にもこの時代の貴族っぽいゴージャスなイメージのデザインとなったそうな。
 ゴージャスで、中でもポルトガル製のダイヤを敷きつめた物が2点もあって存在感があります。ポルトガルってダイヤ得意なのかしら。

 そのダイヤモンドの色々なカットであしらわれた指輪がずらり。
 時代が下るにつれ段々カットの技術が上がるというストーリー。
 初期は立方体を半分に割って、尖った先をピラミッドみたいに上にするだけ。次にピラミッドのてっぺんを平らにカットして、より輝くように、さらに薔薇みたいな複雑なカットでもっと輝きを、これだけでもきらきら輝いてるのですが、最後の計算されつくしたブリリアントカットになると、本当にびかびか、比べるとすごい輝き。
 色々な宝石をあしらった指輪が沢山あるけど、ダイアモンドの輝きはやっぱり特殊で、本当にひときわ輝いている。小さなダイヤモンド一粒に込める何世代もの人間の執念が実に面白いです。そして自分もその執念の一旦にいるという…。

 ロココ時代の指輪はやっぱり輪っかの部分までロカイユ的で非対称にしてくる。色もエナメルの白だったりして、いかにもロココ。でもごってりした装飾はなくて、色と波打つ形そのものと書かれたメッセージが際立つようになっている。
 そのメッセージとは、亡き2人の子供の記念。1人は10歳にならないうちに(6歳だったかな?)、もう1人は生まれて2週間ほどで亡くなったことが書かれている。
 切ない。
 他の指輪にも「…の思い出に」とか書いてあったり。切ない。

 でも切ない系だけでなく、めでたい系もあります。
 指輪といえば結婚指輪。
 ギメルリングと言って、2つの指輪が組み合わさって、1つの指輪になるいる意匠のものが幾つか。ちょうどブルガリの香水、オムニアの瓶みたいな形で、2つの指輪が1つになって永遠に離れないという、かなりロマンチックなものです。
 でも、バロック時代のギメルリングは、2つに分割すると中から横たわる骸骨が出てくる(笑)
 さすがバロック時代、縁起悪いとかどれだけ骸骨好きなんだとか関係なくいつでもヴァニタス忘れない(笑)いや、死んであの世も一緒とか、いつか死ぬから生きてるうちに幸せでいよう、とかそういうメッセージなんだよきっと。

 ロマン主義時代の指輪も面白い。
 宝石とか乗せる肩の部分が、2人の天使になって支えてるなんてゴシックなデザイン。今でもこういうファンタジーなの好きな人絶対いる。
 天使のご加護がありますように、とか確かそんな文字が書いてある。
 他にもこの時代は宝石のカットもやはり中世っぽいイメージの素朴な意匠も流行ったのだとか。

 他にもアーツアンドクラフツな指輪、アールヌーヴォーな指輪、デコな指輪など、どれもいかにもその時代っぽいと思わせるデザインのが並んでいて、面白かったです。


 さて、古代の指輪を巡る物語は、古代にとどまらず現・近代までもなおも続きます。

 面白いなと思ったのは、古代ローマ時代より前からイタリアに住んでいた先住民族エトルリア人。彼らは0.2ミリ以下の小さな金の粒を緻密に並べるという高度な金細工の技術を持っていましたが、その技術は中世には失われてしまいました。
 再現できるようになったのは、ようやく19世紀になってからで、そんな模造品さえ製作不可能だったエトルリアの指輪がコレクター羨望の的となったのは想像に難くありません。エトルリア半端ない。
 で、19世紀に技術が復活すると、さっそく偽物作りに励みだすという。。。エトルリアだけでなく、もちろんローマもエジプトも模造の対象です。

 西欧世界にとって、いつでも「美の規範」であった古代ローマ。ルネサンスの古代復興の波は、指輪のデザインにも及び、ローマっぽい指輪も作られたそうです。
 そんな古代ローマ調は、18世紀末、古代ローマの都市、ポンペイやヘラクラネウムの新発掘に湧く新古典主義の時代に再び流行。
 イタリアへ古代ローマ的な空気を吸いに行く一大流行、グランドツアーのお土産品として、この時期作られた古代ローマっぽい指輪がいくつも展示されていました。人気の模造専門の制作家さんがいたそうな。そのデザインの人気ぶりは、古代ローマの模倣の模倣が作られるほどで、まあ、「偽物」も沢山あったのだろうな。
 はたまた、完全にお土産品なローマっぽいミニアチュールをつないだ腕輪とか。図柄は、コロッセオ、サン・ピエトロ、マルチェラ劇場、ケスティウスの墓、サトゥルヌス神殿の柱などなど、おなじみの。
 ださいと言えばださいのたけど、はしゃいでるお金持ちの旅行者とかお土産に買っちゃうんだろうな。というか、誰かこれを実際に身につけてイタリア萌えしてたのかしら。
 ついでにピラネージのローマの景観も展示。
 まさか、グランドツアーねたがあるなんて。大きな流行は小さな装飾品にまで及びます。


 圧巻は、18世紀からほぼ現代までの特徴的な女性用のドレスの展示。そのドレスと同時代のファッションが分かる絵画や指輪を併置します。
 服装の流行に合わせて、指輪の流行も変化するんだよっていう内容です。

 これが服飾史好きには堪りません。近距離、ガラスケース無し、およそ360度回って見れるので、楽しすぎる。
 個人的な趣味で、ローヴ・ア・ラ・フランセーズ(18世紀ドレス)がん見です。
 他に、アンピール→ロマンチック→クリノリン→バッスル→アールヌーヴォー(どれも可愛い!)と続いて、その後辺りからいかにもドレスって感じのレースやひらひらが無くなった現代の服に近くなっていきます。
 アールデコ調?のアラビアっぽい服。へそ出しじゃなくて、みぞおち出しで、下半身のゆったりしたパンツは透け透け(どういう下着を着たんだろう)。それにフラフープをぶら下げたような円錐形のスカート。むしろ、電飾とかつけてパフュームがライヴで着てそうな勢い。
 いつどこでだれが着たんだろう、これ。

 展示の最後から3番目は、指輪に他の機能をちょい足しした指輪。
 万華鏡がついていたり、極小の時計のついたセイコー製だったり、カメラがついていたり。このカメラつき指輪はロシアのスパイ用とか…。しかし超ごついので、…カメラだってばれないかもしれないけど、目立って怪しすぎる。
 ポイズン・リングは、指輪がぱかっとロケットみたく開くようになっていて、その中に毒を入れておく。で、いざというときに自殺するものだそう。割と最近のアメリカ軍の紋章付きが、捕虜になった時用とかいって生々しい。

 で、最後は、長大な指輪の歴史から見ても、もうほんの最近の指輪ならざる指輪(笑)

 一応、指に嵌まる構造にはなってるようだ。
 だけど、指に対してやたら大きな抽象的な彫刻(小さいながらもう彫刻のレベル)が乗っかっていたり、宝石の替わりにテクノっぽい幾何学なワイヤーが手の平の大きさにわさわさ広がっていたり、何千年と培ってきた指輪という概念を溶解させようとやっきになっている。
 …という意図があるかどうかは分からないけれど、これは本当に指輪なのかしらと首を捻らせるようなものを最後に持ってくるのは、やり尽くした感があって面白いです。
 まあ、これ程豊富な指輪コレクションを誇る指輪コレクターがその指輪コレクションに加えたのだから、指輪以外の何ものでもないんだろうな。


 因みに、版画室の企画展はまさかのゴヤ。
 指輪展と食い合わせはちょっと悪いのだけど、やっぱりゴヤはゴヤで良い。

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