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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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横浜 プーシキン美術館展感想


  横浜美術館プーシキン美術館展~フランス絵画の3百年~見てきました。

 プーサンからレジェまでどの絵も素晴らしく、本当に楽しかったです。
 概要は、副題のまま、スタンダードなフランス絵画をおよそ3百年くらい時系列で並べるもの。

 最初はプーサンのバロック古典主義絵画ですが、続く3点ほどは、カラヴァッジョ、ないしはオランダのカラヴァッジョ追随者風の絵。
 
 
シャルル・ル・ブラン<モリエールの肖像>
 モリエールのいつものもふもふの鬘も素敵なのですが、それ以上に額縁の左右非対称なロココ調装飾のが興味深い。←ただのロカイユ装飾が大好きな個人的関心です。
 額縁の上部中央に装飾された組み文字が彫られていて、誰のイニシャルなんだろう。額縁チョイスはこのイニシャルの人のセンスでしょうか。

 グリムーのリコーダーを持つ少年。こういう絵が単純に好きだ。…図版入手ならず。雰囲気こんな感じです。
グリムーのグーグル画像検索
 例えば、こういうオランダ絵画と同系統かしら。本来ならユトレヒトのカラヴァッジョ追随者が来るところを、ハールレムのモレナール。微妙に彼のファンなので、モレナールを見せたいだけです。
ヤン・ミーンス・モレナール<リコーダーを持つ少女>

 ええと、モレナールはおいといて。
 柔らかいレンブラント風の光。服装もちょっと古風でイタリアっぽく劇がかっていますが、顔がとっても当世風のロココ顔。モレナールのようなオランダのカラヴァッジョ風の絵より、やや灰汁が弱められているようです。いや、モレナールはモデルの顔が濃すぎるから比較しづらいけど。
 羽飾りの鍔なし帽子を被る紅顔の少年、その顔にかかる影や音楽には若さの移ろい、この世の儚さとか読み取れるかしら?
 そうでなくても、こういう単純な絵が単純に好きなのです。

 蝋燭の灯りの下で手紙を読む女性。これも上半身のクローズアップ。観者から中身の見えない手紙と蝋燭の一点放射の光がドラマチック。手紙の内容は、彼女の優しい表情から類推されます。蝋燭は背景を全て闇に沈めて、彼女の顔=心情だけを浮かび上がらせている。

 クロード・ロランの理想的神話的風景画。
クロード・ロラン<マルシュアスのいる風景>
  前景で小さく描かれているのは、木に縛られたマルシュアス。竪琴を持って座っているアポロンはマルシュアスの前で刃を研ぐ男に指差しで彼の皮を剥ぐよう指示している。
 技芸の神様アテネが作って捨てた笛(つまり最高の性能の笛)を拾ったマルシュアスが、その腕前はアポロンにも勝ると豪語したため、怒ったアポロンが音楽勝負を仕掛け、負かした罰ゲームが、この皮剥ぎ。
 かなり凄惨な神罰の背景で、それとは関係なしに、これでもかという美しさの穏やかな風景が広がり渡ります。
 謎の神殿の浮かぶ湖、崖の上にはドーム天井の古代の神殿、そこから流れ落ちる滝、道の奥まで続いていく巨木の森、それら全てを包んで金色に霞む大気。
 絵の中に首を突っ込んで白くけぶる大気を胸一杯吸い込んで肺の奥までもやもやにしたい。

 ブーシェのお師匠、ルモワーヌの素描の寓意。

 霊感を受ける画家とモデルの寓意画。画家もモデルも霊感の擬人像も、人物は全て可愛い?むっちりプットー(童子)で表されています。そしてこういう天使的な絵がポストカードの鉄板なのです。
 子供にしてはいやに目付きの鋭い画家は、ぼさぼさの髪がアーティストっぽい(笑)
 背景は古代調で、それによってデッサンの正統性をアピールしているのかなぁ。
 モデル役のプットーの被る布を除けようとするプットーと、ちょっと抵抗するモデル役のプットー。すんなりとはその姿を見せてはくれない真実を画家の眼力と技術が顕らかにする…! みたいな、画家がそういうように描くとちょっと含蓄があります。
 でも同時に画家とモデルという関係をちょっと思い出していたり。
 ブーシェも大人の職業や牧歌的な恋愛を子供の姿でという絵を良く描いた(注文が多かった)けど、お師匠さんも描いているのは、流行りの画題だからなのかな。

 次に続くのは、軽快な主題の室内画3点。
 ランクレ。間男が奥様にプレゼントを贈るために、その夫からお金を借りたので、返済を迫られたとき、奥様にお金払って貰う、というコントらしい。ありそう。ちょっと笑える。
 マルグリット・ジェラール、フラゴナールの義理の妹。オランダ絵画を当世風に焼き直したファッショナブル室内画。で、オランダの女性っぽい上着を来ている。まろりーはどうしてもこのジェラールにフラゴナールの面影を無駄に期待している…。
 プレリュード(前奏曲)と題された絵。
 
 もちろん何の前奏かって、その後にアルマンドやクーラントを弾くためではないのは、背後のベッドが物語る。二人とも、結局弾いてないしね。
 とりあえず、楽器(特に猫脚クラヴサン)の描かれた絵ということで脳内ストック。

 さて、ブーシェ!
フランソワ・ブーシェ<ユピテルとカリスト>
  この絵のために、何度プーシキンに行きたいと思ったことか!
 数あるブーシェの中でも最高傑作の1つじゃないかと思います。
 主題はユピテルとカリスト。とはいえユピテルは狩猟の女神ディアナに化けているので、画面には二人の女性が描かれることになります。
 ディアナに従うニンフのカリストは、全く警戒心もなくディアナに身を預けている。
 …ただ単純に美女二人を絡ませたかったので、ユピテルとカリストの神話はその口実と言われても驚きません。というか、そうでしょ。
 神話の使い方、本当に上手いな…! この後、カリストが毛むくじゃらの熊に変身してしまうのが信じられないくらい(笑)
 まあ、内容はさておき。
 やはりこの絵の神髄はその色彩、色調の美しさにあると思うのです。
 やや白濁した明るい水色とミントグリーン、真珠色と薔薇色の響き。
 その背景の森の人工的な青と緑の軽快な諧調は、奥へと空気遠近法で後退しつつ、人物の肌色を浮き立たせる。
 三角形の構図を取る人物、カリストのレモンイエローと鮮やかな青、ユピテルの赤。その強い不透明な赤が人物の輪郭など辺りに細かく反射して、ほとんど唯一の鈍い茶色のうさぎとともに、全体に中間色の画面を引き締めている。
 三角構図の固さを崩そうと空の水色の中に戯れ舞う薔薇色のプットー。
 この色の響き合いたるや…!
 背景のニュアンスに富む寒色のグラデーション、人物のみずみずしく煌びやかな暖色。
 多分、このユピテルとカリスト(女性二人)でなければ到達し得ない色と構図。ブーシェ特有のきらめく色彩は流行り廃りはあるものの、後にも先にも、この色彩センスはなかなか無い。

 ブーシェの何が好きかって、時にこの絵みたいに甘くて艶めいた思想の無いインテリアを描くけれども、それにいささかも悪びれることもなく、恬淡としていることです。
 言ってしまえば、この物事に関する恬淡さが、理不尽な人生を快適に過ごす事を可能にする…いや、言い過ぎました。ブーシェの絵にそのような教訓は全くありません。ブーシェを弁護したいあまりに、大袈裟なこと言いました(笑)
 同時代の批評家ディドロは正しい! 逆の意味で。
「才能の浪費、時間の無駄。」「何という色彩、何という多様性、何という豊かな着想。ブーシェの絵には、全てがある。真実以外は。」
 この絵の前に真実なんて何であろう。

 そして、絵とぴったりのロカイユ装飾の額縁がひたすら格好いい。
 ロカイユ、それは絶対に左右対称になんかならないという強い意志(嘘です)。これですよ、十八世紀のロココの絵画にロカイユ…!

 割と本気で複製画(ポストカードや大判印刷でなく)が欲しいと思うんだけど、残念ながら自宅に飾るべき相応しい場所が無い(笑)

 カルル・ヴァン・ローのユノ。ヴァン・ローのサインが格好よくて好きだ。
 アイボリーと鈍い水色の色彩がいいなぁ。←だから圧倒的にこの時期の色彩センスが好きだというだけの話。
 落ち着いて大画面でどっしり構えているものの結構若々しく描いてあって、ブーシェのカリストにも引けは取らない。…まあ、少しは年増かな(笑)

 ヴェルネのサルヴァトル・ローザ風と銘打たれた風景画。

クロード・ジョゼフ・ヴェルネ<ローザ風の風景>

 …ヴェルネ、よくやった! 思わず笑っちゃったじゃないの。
 大岩のごろごろする険しい山や、滝川の急峻な流れ、兵士たちなどが描かれた空想の風景画を得意とするイタリアの画家サルヴァトル・ローザ。
 その荒々しいファンシーさが18世紀からロマン派に流行したのですが、それを正々堂々とぱくった…いやインスパイアされたヴェルネ。
 売る気満々だなぁ…(笑)18世紀の受け狙い絵画本当に大好き!
 ちょうど良い位置にある険しい岩のちょうど良い隙間から滝が流れ落ちています。岩場にいるのは武装した男達と、それに交じって女性が1人。その人たちによって、何かの物語の一場面のような、作為を感じます。

 崖の上には古代の廃墟と空気に霞む糸杉。この鉄板フレーズ、クロード・ロランでも使ったし…(笑)
 まあ、ヴェルネがローザをリスペクトしたのと同じ位かそれ以上に、クロードもリスペクトしていることは疑いない。
 ただ、ローザの絵をカラーでそんなに見たことがないのだけど、今まで見たのは暗いめの画面ばかりで、ヴェルネほど華々しい色彩ではなかった。これが、ローザのロココ的変奏と言えるのか、断言出来ないなあ。まあ、ヴェルネの見た大半のローザも白黒の版画だったのでは? いや、適当な感想。

 ヴェルネについていえば、ロマンチック&ドラマチックな月夜の風景などが比較的有名だと思っているのだけど、この手の何の変哲もないイタリア風も凄くいい。
 おそらく、次世代を予告しているのは、前ロマン主義的な月夜で、この展示のイタリア風の風景画は、ローザだのクロードだのの模倣や焼き直しに過ぎない、ということで注目されないのかも知れない。
 というか、ヴェルネってクロードとローザを混ぜこぜに出来る凄い風景画家なのかも知れない。

 で、ローザでヴェルネにテンション上がったところに、ユベール・ロベールのユベール・ロベールな廃墟画。ヴェルネ&ロベールセットもピクチャレスクでいいなあ。
 古代エジプトと古代ギリシアと古代ローマが一緒くたになったようなざっくり古代な遺跡の風景。 もう、この古代観は本当に共感します。古代は歴史的には詳しくないけどなんか好きって人にとって、直感的な古代ってこんな感じだよね。
 一番向こうに聳えるエジプトぽい四角錐の建物、中程にパエストゥムのギリシア遺跡ぽいドーリス式の廃墟、トーガを着た古代人ぽい視察の人(観光客?)とスケッチしているトルコぽい人。
 エジプトぽいスフィンクスの口から噴水が出ていて、ローマぽい浅浮き彫りがその池に浸かっている。
 岩にロベールのサインとイギリス人へ贈るとの英語のメッセージがあるけど、そこのアルファベットはわざと古代のギリシア文字にしてある。例えば、RがΡ(ロー)、DがΔ(デルタ)など。
 何この雰囲気付けのために字だけは旧字体で書きましたみたいな乗り。英語なのに。ださ可愛い。
 もう、本当にロベールには共感する。ロベール展2やって欲しい!

 続く古典主義とロマン主義の時代。
 十八世紀から受け継いでロマン主義にも流行ったオリエントの異国趣味、ヴェルネやロベールの夢から覚めたイタリア、ローザの空想より荒々しく致命的な自然の猛威。
 それと同時に、非現実なほど理想的に滑らかな古典主義絵画。
 もちろん、女性を描くには柔らかくてうってつけで、話の内容は分からなかったけど、王様の前で服を脱いでいる女性の後ろ姿が彫刻みたいで素敵だったな。

 ミレーはいつものミレーで、コローはいつものコロー。
 仮面舞踏会のだらけた様子の絵。ピエロのだぶついた服で卓に座る人が可愛い。

 大目玉のルノワールの肖像画。
 いい絵だね…!ハッピーな絵。
 とてもハッピーな背景色がおしゃんてぃです。
 こんなピンクにしちゃったら、やはり暖色系で中間色の人肌を殺して台無しにしちゃうんじゃないかと思いきや。
 一体どこから背景色をすごい勢いのピンクにするという発想がわくのだろう。

 ドガのパステルとロートレック好きでした。ルソーのミューズはマツコデラックスにしか見えない。しかも目が怖い。清らかっぽい「詩人に霊感を与えるミューズ」なんてタイトルなのに、異様な植物の茂る背景にグロテスクな肉厚の赤い花。

 シャガールの哀切極まりない絵。故郷が戦争で破壊され、奥さんも亡くなってしまった頃に描かれたという。画面からは激しい喪失感が滲み出ています。
 緑色の夜空、歪んだ三日月の下で街はひっそりとして、しかし燃えるように破滅的な赤に縁取られています。
 空には、馬に導かれる白いドレスの青い顔をした花嫁と、その先にいくつも枝分かれした輝けるユダヤの燭台。

 最後のレジェの絵は戦争が終わって、新しく高層ビルを建てる男たち。天高く組まれた鉄骨の上で槌音を響かせる人間讃歌。
 全体は黄、赤、青、緑の原色で平面的に塗られていて、無機質で直線的な黒の鉄骨や人物の輪郭線が力強い。
 鉄の隙間から見える白い雲が高さと解放感を醸します。
 おそらくシャガールの街は壊されてしまったが、再びレジェは天に向かって建築する。
 壊すのも人間なら、創るのも人間。また新たに再生が始まります。

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