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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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森アーツセンター 世界遺産ポンペイ壁画展

最終日に滑り込みしてきました。

 ヴェスヴィオ山の噴火は、ポンペイなど周辺の町に甚大な被害をもたらしました。
 降灰、火砕流によって、ポンペイやヘラクラネウムは、町の建物と一緒に古代ローマの生活まるごと埋もれてしまった。

 それが、18世紀になって地面の下から新たに発掘されると、この発見はヨーロッパ世界に大きな衝撃を与え、一大社会現象となり、古典古代ブームを巻き起こし、新古典主義の隆盛に一役かったのでした。

 その18世紀の人々も驚かせたような美しい壁画の数々、それを「古代ローマはこんな優雅な生活水準でしたよ」みたいな歴史資料ではなく、あくまで絵画としての視点で光をあてた展示でした。
 だから、注目されるのは、歴史や社会背景云々より、様式や描かれたるもの。
 美術史大好きな歴史弱いめ人間なので、ポンペイの壁画の様式の変遷の詳しい説明は、大好物でした。むしろこういうの求めてた…!

 およその時代順に第1様式から第4様式まであって、一通り実物を見ることが出来ました。(ただ、ポンペイ周辺だけに的を絞った展示なので、この第1から第4までの様式が、ナポリ限定なのか、ローマの壁画美術全体に言えることなのかまでは、分からなかった。これは要勉強です。)

 一応様式の見分け方メモ。

●第1様式 前2世紀~前80年くらい
 漆喰に色大理石風の模様を描いたもの。
 これはギリシアの宮殿建築の模倣で、本物の大理石で化粧張りすると非常に高価になるので、漆喰で安価に再現しようようという意図。

●第2様式 前80~前15年くらい
 建築モチーフをだまし絵的に描く。
 後のルネサンスほど、正確な遠近法を用いる訳ではないが、現実世界と壁画の世界がひとつながりとなるよう描かれている。
 そして壁画の遠近法の奥に、神聖な空間が続いていることを暗示している。
 モチーフになるのは、舞台装置や祠(アエティグラ)。
 たとえば、天井の梁や格子模様とか。描かれた柱と柱の間に、鮮やかな青空を背景に、見上げる視点で神殿を描いたり。柵が描かれて、その向こうには庭がある。とか。

●第3様式 前15~後50
 うってかわって平面的で装飾的になる。
 グロテスク模様や花綱飾りで平面を軽快に区切り、空想的で遊戯的な画面構成。
 そうして出来た空間の真ん中に、画中画として、完結しら風景画や神話画を描く。
 
●第4様式 後50~
 今までの第1~3様式までの美味しいところ総取り。全ての様式が一度に盛られるようになる。
 第3様式の平面的な構図をベースとして、第1様式の色大理石模様と、第2様式のだまし絵的建築画が部分的に見られる。ネロの黄金宮がこの様式らしい。
 
全体の感想。
 完全に倒錯した感想だけれども、ルネサンスのフレスコ壁画みたいだ、と思った。

 もちろん、ローマ時代の壁画がルネサンスっぽいのではなく、ローマ時代の壁画を手本にしたルネサンスがローマっぽいのだけれど。
 
 それから、バロック時代にも受け継がれた古典的な建築の要素とかが、古代ローマの壁画の中に描かれていた。

 特に印象的だったのは、建物の屋根に謎の(笑)彫像が等間隔に並べられているものとか。ほら、バチカンの楕円の回廊の上とか、カンピドーリオの丘のカピトリーニ美術館の上とか、いっぱい人物彫像が立ってるじゃない、あんな感じのやつ。 (的確な専門用語で何て言うんでしょう?笑)

 この倒錯した既視感。
 いったい、どこでどう繋がっているんだろう?

 目の前にあるポンペイの壁画は、ルネサンス時代にはまだ発見されていない。だから、例えばネロの黄金宮とか別のローマの壁画がルネサンスの装飾に取り入れられた。

 他に具体的に何が手本なのか、私は知らないのだけど。

 そのルネサンスの人達が見た古代ローマの壁画と、私が今見たポンペイの壁画が、どんな風にリンクしているのかは、私にはまだ分からない。

 でもともかくも、古代ローマ時代の壁画は、ルネサンスに新たな解釈を加えて復興され、それが伝統となった18世紀に、またポンペイの壁画が当時の人達の前に姿を現し、再び古代ブームを呼ぶ。

 このループ堪らないなあ(笑)


 人間の背丈を超す大きさの壁画が、床に垂直に立てられ、当時を再現するように展示されたりして、そういう図版を見ただけでは分からない、大きさ、遠近感といったものが体験出来て、見に行ってよかったな、と思ったのでした。


 一番好きだったのは、神殿のある風景が描かれた壁画。その名も「牧歌的神域風景と静物」。小高い丘に大きな門があって、その向こうに神殿がある。遠くにはイタリアらしく真っ直ぐ高く伸びる糸杉。←糸杉は私にとってイタリアへの憧れを掻き立てる存在なのです。

 第3様式の画中画だけがそのまま切り取られたもの。発掘された18世紀の額装で展示されてる。それは装飾のないシンプルな茶色い枠で、他にも同じような額のものは当時の発掘物なんだろうか?

 理想の庭園を描いたものの一部を切り取ったものなども。
 鳥は種類が分かるように描かれ、エジプト趣味を反映したコブラvsアオサギ図などもあった。やっぱり異国情緒って大事な要素よね。

 ナポリ王国主導で行われた18世紀の発掘というものは、多分に美的な判断が行われていたらしい。
 というのも、枠にいれて絵になるように、壁画をトリミングしたり、同じ壁画の別の部分を綺麗に組み合わせたりして、ちょっと作ってしまう。
 そして、不要な部分(!)は運が良ければ人手に渡り、しかし大半は砕かれて棄てられた、の由。
 うわー現代からは考えられない発掘法(笑)

 買ったポストカードでも。

 踊るマイナス。テュルソス杖を片手に透ける衣を翻す姿。この透けてる感じが素敵!
 やはり第3様式の一部。18世紀の発掘品で、当時版画化され、広く知られることとなった。この図像はさっそく当時の建築モチーフに取り入れられたそうです。

 

 お食事処の壁画。
 フェニックスと孔雀が描いてある。第4様式の一部。

 PHOENIX FELIX ET TUの文字があるのがすごく気に入った。

 フェニックスは幸せだ、そして君も。

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