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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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東京都美術館のボッティチェリ展感想

一番初めから、いきなり感動した!
 
サンドロ・ボッティチェリ〈ラーマ家の東方三博士の礼拝〉
 照明の成せる技なのでしょうか? それとも作品保護のために我々を絵と隔てる透明な板きれのせい?
 一体、何の作用なのか、そのテンペラ画は、それ自体が内側から輝いているように見えました。
 一目見て極美。
 右側に橙色のトーガのような衣を纏って、堂々と立つ人がボッティチェリ本人だと言われていますが、なるほどのしたり顔。 


 主題は、東方三博士の礼拝。

 マリアとキリストの前で、礼拝者たちとして描かれている、メディチ家など現実当代の貴顕たち。

 その華やかな権勢と、衣服に散りばめられた色彩の極美の輝き、それと仄めかされる現実世界の政治的意図に気を取られて、主題そのものの物語画として見るのは忘れてしまった(笑)

 なお素敵なことには、その絵の隣で、メディチの若者を描いた準備素描なんかが展示されてて、完全に赤い服を着て、最も目立つ位置に立つその人に気をとられる。

 マリアとキリストの顔覚えてないもん。

 うーん、もう一度見たい。


 展示は、おおよそ時代順。

 ボッティチェリのパトロンのメディチ家関連と、ボッティチェリと同時代の、ポライオーロやヴェロッキオの絵画や工芸品から、始まります。

 そしてお師匠のフィリッポ・リッピ、続いてボッティチェリ本人が登場し、その次にフィリッポ・リッピの息子にして、ボッティチェリの弟子のフィリッピーノ・リッピの時代へと移っていきます。
 つまり、フィリッポ・リッピ→ボッティチェリ→フィリッピーノ・リッピ、という時系列です。

 こういう、系譜を辿る系、大好き!

 時代順にも関わらず、一番最初にボッティチェリ凄いんだぜ!って絵が展示されてて、出だしは素敵な演出だったなぁ。

 はてさて。

 お師匠さんのフィリッポ・リッピ。

 リッピからの影響云々は、前に都美であったルネサンスのフィレンツェと工房、みたいなテーマだったウフィッツィ展の時のが、きっぱりとリッピの聖母子をパクった(笑)絵が出ていたので、そっちの方が分かりやすかった。

 でも前の展示に来て気に入ったリッピの受胎告知の4枚パネルとも再会。これ、背景の青が人物によく映えていてとても好き。

 この父リッピのコーナーにあった、ボッティチェリの薔薇園の聖母が綺麗でした。

 おそらくたそがれ時、少し金色になった空が、薔薇や木々の枝葉の間から透かして見える。

 ボッティチェリって、美人さん描きで、それは間違いないけど、それ以上に、光の描写に極美のセンスがあって、人の肌や、布の繊細な明暗、そして夕暮れの空なんかに、そのセンスの輝きが詰まってると思います。

 まあ、夕日にシルエットは大体鉄板ですが、夕日にシルエット好きだーーー。


 ボッティチェリは独立後、自らの工房を構えました。

 売れっ子ボッティチェリなので、きっと沢山の子弟を抱えて、沢山の仕事を捌いたんだろうなぁ。

 ボッティチェリやっぱり難しいな、と思うのは、「ボッティチェリ」作と、「ボッティチェリと工房」作で、結構クオリティが違うところ。

 ボッティチェリ工房だって多分高品質なんだろうけれど、ボッティチェリ本人の筆と比べると、やはり見劣りがします。
 例の光のセンスが足りないのでしょうか…。

 名前の分からない弟子の中でもきっと巧い下手はあって、前にも来ていたボッティチェリ工房のミカエルとガブリエルとヨハネのいる聖母子は、中でも綺麗です。

 今展示、屈指の美しさは、本人の筆になる聖書を読む聖母子。
 ボッティチェリ〈聖母子(書物の聖母)〉
 解説には「高価なラピスラズリや金を用い、入念な仕上がりで、重要な注文作と考えられる」と書いてあった。

 確かに。
 細かな小道具も、装飾豊かな光輪も、描き込まれた聖書の中身も、全く隙がなく。群青の衣紋の緩やかなグラデーションがひときわ目を引きます。

 それを引き締めるモノトーンの室内の壁。聖母の背中の(反射光が美しい!)曲線と、画面を引き締める窓の垂直と水平。窓の外は明るい空、と半分シルエットになっている木々。

 お値段高そう。画面が小さめなのも、単価が高いからだろうか(笑)


 ボッティチェリの〈アペレスの誹謗〉。

 過激にストイックなサヴォナローラさんが、メディチ家を叩き出して神権政治を始めた頃に描かれました。 

 古代ギリシアの高名な画家、アペレスが描いた絵をボッティチェリが再現した、というもの。
 もちろん本物の紀元前4世紀の絵の実物は残っていなくって、文字情報だけで描写された記述が元になっています。

 沢山の抽象概念が擬人化されて描かれている。

 身を固くして祈るように手を合わせた腰布1枚の男。誹謗と仲間たちに捕らえられ、 ロバ耳の王様(ミダス王?)の前に引きずり出されてしまっている。
 王様は、二人のたちの悪そうな女に耳打ちされていて、とても公正な審判を下せるとは思われない。
 老婆の姿の悔恨が振り返るのは、裸身を晒す、隠れるものの無い真理。真理は天上を真っ直ぐ指し示している。

 全裸の真理さんの色気の無さと言ったら(笑)

 まるで男性モデルの胸にちょっとした肉塊をくっつけただけのような。
 お色気で哲学的なテーマを乱したくなかったのでしょうか。やはりエロス禁止なサヴォナローラさんの影響か圧力でしょうか。

 とはいえ、 きっっっちり遠近法取ってます!って感じの、背景の凝った様式の建築が素敵で。

 私はローマ旅行で何度も飽かず見上げた、青空を背に陰を作るアーチ天井を思い出していたのでした。
 レモンイエローのアーチは、私の思うイタリアの (私の旅行は冬だったので、多分、冬のローマ辺りの) 光と陰って感じ。もちろんこれは個人の体験のみに基づくなんら普遍性のない感覚(笑)
 個人的な思い出のために、この絵が好きになりました。

 黒く描かれた建築の輪郭は、定規のようなもので引いたようで、そこだけ絵の具が凹んでいるのが見える。このわずかな凸凹感も好きだなぁ。

 解説には、ボッティチェリ個人の、何らかの誹謗に対するボッティチェリの反応・申し開きだろうとあった。 


 フィリッピーノ・リッピを時系列で沢山見れたのはよかった!

 前のウフィツィ展で、老人(父親かも?)の肖像が素敵だったリッピ。
 フィリッピーノ・リッピ〈老人の肖像〉
 その肖像は、描かれた人の表情も生き生きと、自然な光の中で親密な笑みを浮かべていました。

 それは陶版に描かれた、おそらく練習用といったもので、もっと気合いの入った作品はどんなものだろう、と気になっていたのでした。

 フィリッポ・リッピの息子のフィリッピーノ。父亡き後は、ボッティチェリの元で修行し、ボッティチェリのライバルにまで成長したという。

 ボッティチェリより年下なんですが、ボッティチェリより先に死んじゃうんだよねぇ(/_;)


 同時代では、ボッティチェリは「男性的」で、フィリッピーノ・リッピは「甘美」と評されたそう。
 男性的、というのは一瞬、いやー?と思ったけど、もっと現代語でいえば、理知的で、デッサンも直感ではなく計算してちゃんと描く、といったほどの意味だとか。なるほど。

 ボッティチェリは、輪郭というものをしっかり明確に取り、陰影は柔らかいものの、確かに硬質。
 一方、風景描写や静物表現で、フランドル絵画にも学んだらしいフィリピーノ。
 輪郭はより柔らかく、ボッティチェリと比べると、ほわんとしている。


 展示では、ボッティチェリの影響の強い初期から、影響を脱する晩年までありました。

フィリッピーノ・リッピ〈幼児キリストを礼拝する聖母〉

 正直言って、初期のボッティチェリ風の方が好みといえば、好み(笑)
 穏やかな風景、平和なお庭。衣紋のたっぷりした量感が綺麗だな。
 
 歌う天使のいる聖母子。

フィリッピーノ・リッピ〈聖母子、洗礼者ヨハネと天使たち〉
https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Filippino_Lippi_-_Virgin_and_Child_with_Angels_-_WGA13078.jpg より

 子リッピは、音楽に興味があったらしく、いくつかの楽器を所有し、絵の中の歌う天使が持つ3声の曲の楽譜も正確なのだって。
 これなーポストカードあったら欲しかったのになー。

 YouTubeで、イタリア語の説明見つけちゃった。いや、最初、まさかあの天使の歌の再現か!?と思ったけどそれは期待外れだった(笑)そんな都合の言い訳ないよね。

 イタリア語、何言ってるか全然分かんないけど(笑)
 でも、この絵の遠近法の消失点が中央になく、ちょうど楽譜を持つ天使の辺りにあり、人が立つ位置も天使の正面らしいことが図示されてるぽい?


 しかし後期は、フランスのフィレンツェ侵攻やら、メディチ家の追放やら、サヴォナローラの神権政治と失脚、火刑やら、政治的な情勢不安を反映しているのか、ちょっとエグいめの画風に変化。
 
フィリッピーノ・リッピ〈マグダラのマリア(ヴァローリ三連画の両翼画)〉
 こ、これは怖い(((((゜゜;)

 ボッティチェリも、繊細美麗で美人なお姉さん画風を、神秘主義的で禁欲的で宗教的にアツい画風に変えてしまったので、フィレンツェ全体で華やかな気分から、どこか重々しい気分へと変わっていったのでしょうか。

 この展示には、全く出てきませんが、レオナルドやミケランジェロは既に元気に活動しており、この二人は確か、フィレンツェにいたりいなかったり。
 ちょうどフィリッピーノ・リッピが亡くなった年に、ミケランジェロのダヴィデ像が完成しています。

 多分、同意見の人は多いんじゃないかと思うんだけど、サヴォナローラさんに嵌まる前の、ルネサーンスな感じのボッティチェリの方が素敵だよねぇぇぇ。
 全部、サヴォナローラが悪いのだろうか。少なくとも、美術的な視点で見る限りでは、サヴォナローラさん極悪である(笑)


 そろそろ締めなくては。
 締め言葉が思いつかない。


 全体でとても良かったです。

 展示の流れもボッティチェリを中心に据えて、単純明快で分かりやすかったし、なによりも絵が、説明なくとも純粋に綺麗だ。
 ボッティチェリは、最も人気のある画家の一人と思いますが、その人気の理由も分かった気がしています。

 ところで、ルネサンスの人がよく被ってる、ターバンのような、布が垂れ下がったつば無しの帽子。
 あれは、mazzocchioマッツォッキオといふさうだ。

ボッティチェリ〈マッツォッキオを被った若い男〉

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