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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生展の感想メモ

Bunkamuraの風景画の誕生展の感想です。Bunkamuraでは会期終わっちゃってるけど、まだ他館に巡回するから、時効じゃないよね!?


 北方の細密な宗教画。
 縦横30cmに満たない小さな画面のなかの、髪の毛や布の細密な描写が美しい。
 金糸の刺繍の施された重たげな布。
 金の絵の具を使っているのではなくて、普通の黄色とか黄土色の絶妙な筆捌きで糸の質感と、金の輝きを再現してある。

 ティツィアーノの不思議な絵。

ティツィアーノ≪タンバリンを演奏する子供≫
 自然の風景、あるいは庭園のなかで、石のベンチ?に座って裸の子供がタンバリンを掲げている。背後では小さく猟犬が兎を追いかけている。
 何やら神話的で、寓意的で、謎めいた雰囲気。瞑想的とも言えるかも知れない。子供はあんまり可愛くはないですが(笑・子供の愛らしさを表現する絵ではないと思われ)、後ろの穏やかな光の中で豊かに茂る木々の織り成す色彩など、画面全体で調和したトーンが綺麗だな。
 シリーズものらしい。元ねたが何かあるのでしょうか。他のも見てみたいな。

 アンドレア・ディ・レオーネの牧歌的風景が、一番のお気に入り。

アンドレア・ディ・レオーネ≪ヤコブのカナンへの出発≫
 牛や羊を率いて荷馬車で移動する人たち。
 どうやら動物好きなようで、画面からは動物に対する共感がうかがえます。
 荷馬車の上には、賢しそうな猿。なんとこの猿が手綱を持って荷馬車を御しています。
 で、あーすごくいいなあーって思ったのが、羊たち。
 羊毛のリアルな質感表現もさることながら、一匹一匹共感を持って描かれ、表情も動き生き生きと豊かで、鑑賞者と目が合うように描かれています。

 サルヴァトル・ローザの≪アストライアの再来≫

 個人的に注目しているローザ。アンドレア・ディ・レオーネのお師匠らしい。
 17世紀のイタリアの風景画家です。現代ではマイナーではありますが、18世紀に非常な人気を誇り、19世紀もロマン主義運動の中、ロマン主義的な解釈により、ほとんど不当なまでに(笑)評価の高かった画家なのです。
 私も詳しくは知らないのですが、画家ながら、風刺詩を発表し、批判劇を作って自作自演したり、「既存の価値観に反逆」したり(多分この辺ロマン主義伝説)、画家兼詩人になる前は山賊だったり(完全に伝説)、色々とロマンチックでアグレッシブでクリエイティブでチャーミングなキャラクターらしいのです。
 つまり、絵そのものより、そうした神話に彩られた生き方とかが評価されて今に至るという訳で、伝説も超面白いけど結局、本当はどうなんだろう?どこまでが神話でどこまでが史実なんだろう?図版じゃなくて、とにかく本物の絵が見てみたい!と熱望しているのが、ローザなのです。
 能書きが長くなりました。
 で、肝心の絵。
 遥か昔、天上界へ去ってしまった正義の女神アストライア。女神が雲をまとって羊飼いたちの元に戻ってきた、という歴史的風景画。
 うーん……。
 正直に言って……なんか、肝心の人物描写が甘くていまいち。前に見た戦闘画は力強さと繊細さがあってすごい良かったんだけどな。
 もっと別の絵も見てみたい。

 レアンドロ・バッサーノの大きな画面の装飾画連作10枚。
 1年間の人々の営みを、それぞれの月ごとに描く12ヵ月のうち、10ヵ月分がずらり。
 こういうカレンダーの絵は、中世の昔から時祷書に描かれてきた伝統で、そうした写本装飾の写しが参考として並べられていました。
 各絵は大体横幅2メートル近くある大きさで、月々の農作業が、暗い青のトーンで統一して描かれてある。
 描かれた沢山の農民たちが、各月色々な農作業をしているので、彼らが何をしているのか、理解しようとすると、結構見るのに時間かかるというか、長い間見れちゃうというか。
 どこかの宮殿の大広間やギャラリーに飾られていたのでしょうか。美術館の素っ気ない壁にけられていても、十分な迫力。

 ベルヘム! 大好きなベルヘム。ローマの水道橋のふもとにろばに乗ったお姉さんがいる風景画。

ベルヘム≪水道橋の廃墟のある風景≫
 もとの絵は、同じく素敵なローマの廃墟のある風景を得意としたアセレインのもので、ベルヘムはそれをコピーしたようだ。

アセレイン≪らばのいるローマの水道橋の廃墟≫
 ただ並べてみたかっただけの、アセレイン。
 アセレインと比べると、アセレインのが、ぱりっとしていて、ベルヘムは筆致が緩くて、色も甘いめ。
 ベルヘムは登場人物を変更していて、ろばに乗った赤いスカートのお姉さんにしているのが、いかにもベルヘムって感じです。こんな感じのろばに乗った農家のお姉さんを、ベルヘムは良く描いているのです。
 こういうところがベルヘムのセンスなんだな。
 
 白い風景。雪の積もった森の中で、暖を取る流浪の人々。

ヘイスブレヒト・リテンス≪宿営する放浪の民のいる冬の風景≫
 この絵、かなり好きです。
 画面の大半を埋め尽くしているのは、葉を落とした木々の枝で、雪が積もって白くなっています。
 枝に止まる鳥や、火を囲み森で身を寄せ会う人々が物語を添えています。
 冬の厳しい寒さと、野生の森の危険は、白と銀色のファンタジックな色彩で美しく弱められている。
 ちょっとおとぎ話のような素敵な世界観がとっても素敵。
 この図版を探すため、リテンスの絵を検索したのだけど、この方、どうやらこの手の冬の景色や雪景が得意らしい。面白い!

 世界観で面白かったのは、ルーカス・ファルケンスボルフの山道。
 というか、これは漫画です。
 画面の左端、絵の中では一番手前になりますが、切り立った道の向こうから刀を振りかざす山賊と山賊の手下、彼らに追われている旅人が必死の形相で逃げてくる。
 劇がかった大げさな身振り。その面白いどたばた劇で絵の中に誘われて、彼らのいる高い崖の上から画面中央を見下ろすと、謎の採掘現場が現れる。
 おそらく砕いた石から金属か何かを取り出したゴミと思われる、黄色い泥水が、川を濁しています。
 いいのかな、環境破壊。その黄色い泥水、川に流して大丈夫なのか(笑)
 でもこの感覚は、多分、現代人のものでしょう。往時の人は、どんな気持ちでこの採掘現場を見たものだろう。おそらくギャップがありそう。
 さらにその向こうの画面右で、峻険なぎざぎざした山と、そのてっぺんのお城。ファンタジー。

 カナレットってやっぱりすごいな。

カナレット≪ヴェネチアのスキアヴォーニ河岸の眺め≫
 小さいながら、この展示中で一番の臨場感。これがカメラオブスクラの効果なのでしょうか?  それとも、もっと現実の遠近感より強調しているのかも?
 視点は高くもなく低くもなく、人の目のリアルな高さよりは少し高いかも知れませんが、とても自然で、画中の小さな人物たちと、こちら側の鑑賞者と同じ地面を共有できるよう。奥のものは奥へ、手前のものはぐっと手前へ迫ってくるみたい。
 それで、繊細な建物と、船やゴンドラ、軽快な人物の描写。
 あーヴェネツィア行きたい! サンタ・マリア・グロリオーサ・ディ・フラーリ聖堂とか行きたいよー。
 やっぱりカナレット好きだわー。

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