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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美 感想

展示されている資料や絵画そのものが綺麗なので、純粋に楽しかったです。
 ボッティチェリやその周辺の絵が半分、フィレンツェの商業や習俗に関する史料が半分といったところでしょうか。

 一番始めに、フィレンツェで鋳造された金貨が展示されていて、これは当時、重さが厳密に統一され、造形も美しく完璧だったために、国際通貨として広く普及したのだそうです。そして偽物も沢山出回ったということで、模造硬貨も一緒に展示されていました。本物かどうか確かめるために噛んだ跡の残る金貨とか。
 …漫画(しかも古典的な)やテレビの中だけの話と思ってたけど、本当にやってたんだ、金貨に歯を立てるって…そしてそれがモノとして遺っているんだ…。
 で、このフィレンツェの金貨の流通はフィレンツェの発展に大きく寄与したということです。

 商人が使ったような頑丈な箱や南京錠、算術の教科書、為替手形、世界地図。
 各国をまたに掛ける商人たちにとって、大量の金貨を生で持ち運ぶ必要の無い為替手形は画期的なシステムで、フィレンツェの銀行家メディチ家の発展には、こうした商習慣が背景にあったのだそうな。
 両替や為替の手数料収入で莫大な富を築き、フィレンツェ納税者ランキングでは次席を大きく離して断突の1位。
 その富がボッティチェリら学芸・芸術振興に注がれました。だって。

 ところで、金利でお金儲けをしてはならない、とキリスト教の法律では決めてある。
 メディチ家ら為替取引を商う銀行業は、これに抵触してしまうのですが、何だかんだグレーな理屈をつけて合法化したようです。(美術館の解説にはきちんと書いてあったけど、難しくて忘れた(笑))
 勝手な想像だけど、メディチ家が主導した古代ギリシアやローマの研究って、いかにも金融業と相性の悪いキリスト教会の思想を相対化したいって思惑もあったのかなぁ。

 テーマが、フィレンツェの富と芸術なので、展示されている絵の華やかなこと。
 財力があれば、贅沢な暮らしにも手が届いてしまう。それは王侯貴族だけに許されたもので、一般庶民に贅沢されると、身分制度の秩序が乱されてしまう。
 ということで当初は贅沢することは禁じられていましたが、すると関連産業の経済が回らなくなり、やはり商人の街フィレンツェ、一定の罰金を払えばOK、という制度にしてしまったのだそう。
 そんな羽振りの良く華やかな様子を伝える絵が、豪華で美しい。
 ファッション史好きには楽しいルネサンスなファッションが堪能出来ます。

 特にスザンナの物語の豪華さは綺麗だったなあ。
 
スケッジャ<スザンナの物語>
 確か長持ちの装飾用で、きらびやかで繊細な金の衣装を引きずり、付き人を連れたスザンナがお庭に水浴びしに行くところ。
 その中庭に不法侵入する偉方のお爺ちゃんたちの衣装もやはり豪華で、細密な描写が画面全体を覆っていて、本当に華やかです。
 ちなみに、お爺ちゃんたちが権力を振りかざして、水浴び中のスザンナさんに言うこと聞かせようとするのを、スザンナは毅然と拒絶した、という貞淑のお話なので、この画題はお嫁入り道具として相応しいということです。

(取り敢えず、にわかで大好きなフラ・アンジェリコ見れて良かった。聖母マリアの結婚と葬式が描かれた小ぶりな歴史画。…祭壇画装飾だったかな? 当時の豪奢な冠婚葬祭の例として。フラ・アンジェリコは色彩の織り成す清廉な光と陰がやたら好きで、出来れば図版でなく本物を沢山見たいという思惑。)

 さて、ボッティチェリ。
 目玉の受胎告知のフレスコ壁画は想像以上の大きさでした。

サンドロ・ボッティチェリ<受胎告知>
 幾分か欠損しているようだけど、完璧な修復がなされています。むしろ修復の本気が凄い。

 ウィキペディアに修復前の画像が載ってました。興味深い。

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Botticelli_-_Annunciation,_1481_(Uffizi).jpg

 床などに繊細な陰影がある一方、遠くの背景の丘の上の木とか、緑の一刷毛でさっと塗ってあり、意外とこういう筆遣いもするんだ。

 ボッティチェリは、荒い筆致なんかしないでひたすら「繊細」ってイメージがあります。
 他の絵もテンペラ、油彩、その混合など技法も多彩でしたが、テンペラの繊細な光の表現は素敵。マリア様の頬にかかる滑らかな陰影と反射光なんて、美しいなあ。
 いや、反射光が格好いいのだよ。

 有名なヴィーナスの誕生は、やはり人気だったようで、ボッティチェリ工房でのコピー作品も展示されていました。
 ボッティチェリ工房<ヴィーナス>
 例の有名なヴィーナスが縦長の画面に、例の有名な緩いS字のポーズで立っています。貝殻もお付きの神々も無く、背景も思い切り良く黒で、彼女の白く滑らかな肢体が浮き上がります。
 この絵単体では、薔薇だの鳩だのヴィーナス要素は皆無で、もちろん見た瞬間ボッティチェリのヴィーナスだって認識するのですが、なんというか、ギリシャの神様だから標準全裸でオーケーという約束事が弱まって、元絵よりもそのエロティシズムが増してします。
 あ、全裸じゃなかったんですよ、一応。あってもなくても変わらない位すっごく薄い衣を申し訳程度に巻いています。
 女神だろうが不特定な女性だろうが、どちらにせよ当時の過激に厳格な修道僧サヴォナローラさんにお焚き上げにされちゃいそう(笑)(フィレンツェで活躍したサヴォナローラさんは余りに真面目で、色っぽい絵や贅沢な絵、キリスト教的にアウトな絵など集めて焼いてしまいました。)

 そのサヴォナローラはカリスマ性があったらしく、フィレンツェからメディチ家を追い出して、一時政治をとるようになりましたが、華美を嫌い清貧を尊びすぎたあまり、教皇まで批判したため破門され、フィレンツェのシニョーリア広場で火刑にされてしまいました。
 その様子が絵にされていて、今も写真で良く見るあの広場で、人の背より高い台の上に、さらに高々と磔にされて、下から火に炙られているサヴォナローラとその弟子?たち。
 写真でしか見たことがないとはいえ、実際に見覚えのある広場で火炙りだなんて、何かさ、火はすごい燃えてるんだけど、絵で見ると火元から遠くて、結構えぐい。

 晩年のボッティチェリは、サヴォナローラの死後も彼に傾倒して、その影響で画風も神秘主義的で宗教的に熱狂的でどこか不安感があるものへと変わっていったそうです。

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