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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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イタリア旅行記 オルヴィエートとオルヴィエートの大聖堂

次なる目的地はオルヴィエート。
 道々、展望ポイントからオルヴィエートの外観を臨む。
 
 やはり、チヴィタ・バーニョレージョと同じく崖の上に乗っている街です。  でも閉ざされたような村ではなく、司教座も置かれ、いつかの法皇が滞在するような立派な街だということです。
 ガイドさんのお話によれば、このような崖の上の町は古代エトルリア人の集落が起源となっているのだそうで、高い所に家々やインフラを築くために、土木技術を磨いてきたのだそう。古代ローマの長大な水道橋とかの建築技術もエトルリア人に学ぶところなのだとか。

 オルヴィエートの手前に、墓地がある。そこには糸杉が植えられているようです。これが音に聞く墓場の糸杉!
 糸杉という樹は素敵だなぁ。とても心惹かれる異国の樹。何というか、殆ど白秋の邪宗門的な憧れかも知れない。
 庭には植わらないから盆栽にならないかな。

 さて、街に入ってお昼を食べて、早速オルヴィエートの大聖堂へ向かいます。  いい雰囲気の街並み。程よい狭さで古げな感じ。お店は日曜日で、道々殆どのお店がお休み。明かりの消えたショーウィンドウにセール中の文字が賑やかに貼られています。時々観光客向けのお皿だのなんだのを売るお店が開いている。
 路地を抜けると広場の脇に出る。斜めに見える大聖堂。白と黒の石で出来た縞模様の壁が面白い。

 少し黒い雲が出てきた。まだ陽射しはあるものの、ほんの少しだけ天気雨。
 しかしその暗い空の色を背景に、我々の背後から冬の低い太陽が、そのゴシック建築の正面のモザイクを黄金に輝かせていました。
 ゴシック建築というガイドさんの解説だったけれど、視界に収めたとき、何となく違和感を感じていたのですが、中に入ってみてその違和感の正体は直ぐに思い当りました。
 身廊の天井は平らかで、典型的ゴシックの尖ったアーチはなく、いわゆるロマネスク様式。
 つまりは、このゴシック聖堂とはいえ、ゴシックの構造をしていないのでしょう。
 でも奥の後陣や礼拝堂は確かにゴシック様式。
 尖頭アーチを持たない身廊の天井は、ゴシック建築みたく横に広がる力が加わらない。そのために、パリのノートルダムのような控え壁だのフライング・バットレスだので、外側から改めてごてごてとつっかえ棒する必要もないのでしょうか、オルヴィエートの聖堂の外見は非常にすっきりしていました。
 一面モザイクの正面装飾も、尖ったところの無い半円と、素直な幾何学的な直線で構成されていました。

 参考。パリのノートルダム。ゴシック建築の代表。
 オルヴィエート大聖堂と比べると、外見のごてごて具合の違いが分かります。そしてオルヴィエート本当にシンプル。勿論、中身のごてごて具合も同じくらいの違い。
 壁の全面で荷重を支えるため、窓を大きくとれないのがロマネスク建築。  強度を保てるよう縦に細長い小さな窓が数メートルおきに開いていて、でもその窓は一応ゴシック風に尖頭アーチ。
 小さな薔薇窓から、白い光の筋が細かく別れて幾条か伸び、身廊上部の壁に丸く陰を映していました。

 ところで、旅行のお伴にと一冊の本を携行していて、それが白水クセジュ、ミシェル・フイエ著作の「イタリア美術」。
 といっても観光中は結局見る暇もないのですが、帰りの飛行機で暇つぶしに読み返してみたら、このオルヴィエートの大聖堂の事もきちんと書いてありました。
 いわく。

 そもゴシックなるものは、アルプス以北で生まれ発展した建築であり、イタリアへは発生からやや遅れて伝播した。
 またゴシックの先進技術がもたらされた後も、イタリアでは前の時代のロマネスク建築への愛着が強く、ゴシックをもっぱら装飾要素として部分的に取り入れることも多かった。
 オルヴィエート大聖堂はそうしたロマネスクとゴシックの折衷様式の典型である。

 とかそんな感じ。
 おおお、鮮やかな解説。
 やっぱり、実物見る前と後では、この手の解説本も頭への入り方が違うよね。
 このフイエ氏の「イタリア美術」は、図版はほぼ皆無で、時には1ページに数人ものイタリア人の名前が並ぶこともありますが、にもかかわらず、辞書的な羅列にはなっていなくて、とても分かりやすく、簡潔で、互いの画家の影響関係なんかも記述されていたりする、結構な新書です。
 薄くて軽いので旅行に持ち出しやすいし、またイタリア行くならまた持っていこうかな。

 さて、聖堂の中に戻りましょう。参考にウィキペディアどうぞ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Orvieto_Cathedral
 柱などは外観同様の白と黒の縞模様。時々、とても傷んで殆ど剥落した壁画がある。
 いよいよハイライトの礼拝堂。
 北側の礼拝堂はルネサンス以前の壁画で埋められていて、何やら聖人伝が描いてある。薄暗い中で鮮やかな青がまだ残っていて、厳かです。お金を入れると電気が付くやつ。
 そして派手な南側。

 ルカ・シニョレッリの最後の審判が縦横無尽に描かれています。
 もっともシニョレリの絵だと知ったのは、やはり帰国途中のフイエの本だった訳ですが、この時は素直にミケランジェロの追随者の手だと思いました。  事実は逆のようで、「後のミケランジェロを予告する(byフイエ)」 作品だそうです。
 解剖学的な人体に、線遠近法。テクノロジー最先端って感じが熱いです。  騙し絵で描かれた丸窓から半身飛び出る人。目の前で繰り広げられる光景に驚き慌てふためいて身を乗り出している。
 現代まで続く飛び出る画像への欲求は、きっと人間の本能なんだろう。

 ヴォールト天井の曲面に、地上の審判のあれこれを超越して、金字を背景に諸聖人が雲に乗って泰然と浮かんでいます。
 四面の合理的な遠近法を駆使した空間で、地獄に落ちる人々、肉体を得て立ち上がる人々と面白い対比になっています。
 金の背景は、何の説明もしないし、物語りません。だから無限で永遠。

 さて再び飛行機の中に時を進めて、フイエの本。
 この美しい天井画の作者はフラ・アンジェリコだという。
 あー、フラ・アンジェリコだったんだ! もっと良く見ておけば良かった(←禁句・笑)
 つい二日前にフラ・アンジェリコに俄かに目覚めたばかりで、全然画風とかで気付くことは無かったわ。あんな絵も描くのだなあ。
 きっと、この大仕事が完成した後、フラ・アンジェリコも礼拝堂の真ん中に立って自分の仕事を見上げたことでしょう。恐らく同じ場所で同じく天井画を見上げた、そのロマンでも齧ってよしとしましょう。

 肝心の祭壇画は、じつは絵そのものはどんなだったか忘れてしまった。  絵の枠はバロック風で、放射状の光の筋の彫刻が絵を縁取っている。
 さすが現役の礼拝堂は色々な時代の色々な様式が交じりあっていて、時の流れと歴史と、その間じゅう愛されていたことを感じます。

  礼拝堂を堪能して少しだけ周りの路地を一周。異国情緒満喫です。ツアーなので余り多くの時間は許されていません。本当はもっと街中を散策してみたかったものです。


 それから十六世紀に作られたという、井戸に降りてみます。
 水を得るためには相当深くまで掘らなくてはならなかったようで、百段もの(実際は何段かは知らないがとにかく沢山の)螺旋階段をひたすら降り続けます。
 上方の丸い穴からの光が、一周する毎に段々弱く暗くなっていく。わずかな光の届く井戸の水底は青く、観光客の投げ入れた硬貨がきらきらと反射しています。
 そしてもちろん降りた分だけ昇ります。

 それで何が観光かというと、この井戸は二重の螺旋になっていて、この狭い階段で、昇る人と降りる人がすれ違うことがありません。これは当時は画期的なプランなのだそうです。
 よく分からないけど、ルネサンスの人って二重の螺旋階段好きだよね。

 井戸の入場料は5ユーロ。5ユーロで足の疲労物質を買ったようなものですが、これも旅の貴重な思い出です。

 帰り道。再び朝に羊たちの放されていた平原を走ります。
 先ほどのオルヴィエートの黒雲が、ついに我々のミニバスの上空にやってきて、バケツをひっくり返したような大雨。大きな雨粒が狂った勢いでフロントガラスを叩き、殆どワイパーも役に立たない。
 が、それも長くは続かないで、あっという間に西の方から晴れていきました。
 空の真ん中でちょうど黒雲と空の二色に別れ、強い西日がまだ暗い東側を照らしだしたとき。
  
――虹!
 それも大きな虹が、暗く湿った空を背に輝きだしたのでした。
 遮るものの無い平らかな大地の端から端に、完全な半円を描く二重の虹。
 大地から生えて大地に消える、完璧なスペクトルのアーチ。完璧な虹!

 ヴァランシエンヌの虹。
 それはこのような雨とこのような虹でしょうか? 
 
ピエール=アンリ・ド・ヴァランシエンヌ<ピラミッドと虹>
 イタリアで実見したものを組み合わせたこの空想風景を思い出していました。
 恐らく、この現象は珍しい事ではないのだろうと思っています。

 世の中に、完璧なものは滅多にありません。が、これはその滅多に無い例外。
 どこの美術・博物館にも飾られていないこんな「珍品」まで見られたなんて!
 幸運な旅路で、雨に降られたのはこの車中のこの時だけでした。

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