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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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ヴェネチア展、意外と混んでてびっくり。

 ヴェネチア展の感想を話そうと思います。よりそれっぽい発音はヴェネツィア展になるか…。ともかく江戸東京博物館でやっている美術展です。
 ヴェネチアという都市の歩みを中世末期から18世紀くらいまで様々なものから見てみようという内容で、絵画だけでなく、彫刻、地図、地球儀、航海道具、ゴンドラの飾り、家具、衣服、模型など、珍品の数々が並べられていました。
 結構ピエトロ・ロンギなど18世紀ねたが多くて、個人的には大喜びです。
 あと、やはり大好きなご衣裳も、総督の帽子や財務官の服、18世紀に流行した刺繍の美しいスーツにドレス、と飾られていたので、これもやはり大喜びです。
 
 まあ、絵画の事でも。
 広く浅くの展示なので、ヴェネチア派絵画の歩みを見よ、みたいな壮大さなどは期待できない。
 でも個々の絵は結構印象的で、いちいち面白かったものの、いちいち感想を言うのも、いつものように徒らに記事を長くするので、今回は同じ無駄でも短く目指してみようとの心算。
 
 さて、数で目をひいたのがピエトロ・ロンギとその工房の風俗画。
 実は、ロンギの絵をまとめて見たことはなかった。上流っぽい(ただのお金持ち?)人たちの風俗画を生き生きと幾分軽いタッチで、その変わり過度な感情移入もなく描くピエトロ・ロンギ。おそらく、当時に人気があって売れた絵を売れるように描いた結果、現代人が想像する「18世紀らしさ」のイメージに、彼の絵画が大きな影響を与えているのではないかと思える程の、その時代らしさ。(いいな、ロンギ。何かの機会に本格的に調べてみたいものだ)
 田園へお散歩に行く人たち、華やかな服を着て集まる人々、仮面とマント--つまり非日常--を着けて、画中お忍び気分で舞踏に賭博に遊び歩く人々。いえいえ、楽しいですね、ロンギの絵は。今も昔も世俗のファンシーを誘います。
LaVenditriceDiEssenze.jpgピエトロ・ロンギ<香水売り>
 例えば、同じ室内の昼と夜を描いてある二枚の絵。片や演奏会、片や舞踏会に興じる着飾った男女達が描かれます。 吹き抜けの部屋は幾分高いところから、ドールハウスみたいにあらゆる細部が見渡せるような視点を取ります。
 昼間の演奏会では、楽師達は中央に集められ、その周りで人物達は聞くも聞かないも自由に振る舞います。演っているのは、きっと同時代のヴェネチア人ヴィヴァルディの音楽に違いない(安直)。違うにしても、まあ、概ねそんなような音楽だらう。
 夜になれば舞踏会。やはり中央には若い踊り手が一組。左右の壁沿いに椅子が並べられ、人々は立ったり座ったり。おそらく、奥の窓際に楽師たち。おそらくと言うのは、わたしが、舞踏の場に必要なはずの楽師が画中に居たかどうか忘れてしまったため(笑)きっとメヌエットなりアルマンドなり、ひょっとしてカナリーやシシリエンヌか、ともかく当世風の舞曲を演奏するのでは。
 沢山の蝋燭が贅沢に立てられたシャンデリアは空間のちょうど真ん中にくるよう吊り下げられ、だから吹き抜けの二階の廊下にいる人は踊るカップルと同時にそのシャンデリアを見下ろすことになる。そうして欄干にもたれる人々の影が、大きくぼやけながら天井に揺らめいています。
 シャンデリアでも照らしきれない壁際には、所謂ルイ15世様式の燭台付きの鏡がいくつも架けられて、自らの蝋燭とシャンデリアの蝋燭の灯りを反射している。思えば、ルイ14世の頃はヴェネチアは高価な鏡の名産地であったな。この斜陽の頃のヴェネチア共和国はどうなんだろう。
 …どうやら、のっけからこの絵の前に留まり過ぎたようです。絵は軽快に描き飛ばしてあって、量産品といったところ。どうせならポストカードでお土産になってくれればよかったのに。

 ベリーニの聖母子。
bellini-madonna.jpgジョヴァンニ・ベリーニ<聖母子>
 一言で言えば、極美。どのように美しいかは、まあ、ルネサンス絵画には大方お決まりの。と言って記事短縮。淡い中間色とはっきりとした輪郭、柔らかく穏やかな光、清廉として問答無用の美しさです。
 大体、ピエトロ・ロンギの後に置く意味が分かりませんが、人間の世俗の欲望に忠実な(むしろ掻き立てる、更に画家側の商魂も逞しい)絵画の後の聖母子とは(笑)。余計に濁りなく美しく見えるというものです。
 以下まろりメモ。
 ベリーニといえば、迫真の質感描写のヴェネチア総督。
bellini-doge.jpgベリーニ<レオナルド・ロレダンの肖像>
それと比べると古風ともいえる画風だった。初期作品なのか宗教画は大衆に馴染む古めの画風が好まれたのか。
 
 ミケランジェロのレダをもとにした大きな絵。 四角いカンバスの中いっぱいに、組み合った白鳥と人体を詰め込むには、どのような構図を取らせたらよいかという創意を感じる一枚。
 両者とも目的の為にとても非現実的な捻じれたポーズを取らされており、輪郭がぼかされた肌の質感は柔らかいものの、全体には冷ややかです。ミケランジェロは輪郭をしっかり取る方がお好みだったと思うので、この辺はヴェネチア好み、という事なのでしょうか?
 ミケランジェロのコピーはルーベンスも描いています。ルーベンスのとポーズは変わらないけど、ルーベンスのよりはもっとよそよそしくマニエリスム風であったと思います。
 まろりーは、レダは騙し討ちされたと思っていたのだけど、この絵はどうやらそうでないように見えます。暗緑色の背景(多分)、白い肌のレダと上に乗る白鳥の傍らに赤いドレスが床に脱ぎ捨ててあって、当世風の、白鳥には扱いにくそうなそれは、まだ空気を含んで、袖がレダの腕の形を保っています。
 無論、まろりーはギリシア神話に忠実でない、と言いたいのではなく、神話という口実と仄めかされる現実感が奇妙に混じって、その混交がとても好きです。いや、決してエロティックだからという理由でなく!いや、別にそう思うならそう思ってくれても構いませんが(笑)
 
 
 ウェヌスとサテュロス。
Ricci-VenusSatyrus.jpg
セバスティアーノ・ロッチ<ウェヌスとクピドとサテュロス>
 正直、それほど良い絵だとは思わないけど(笑)
 ウェヌスは愛と美の女神。サテュロスは、山羊の足を持つ山野の神。人間的文化的洗練とは無縁の彼らは粗野でしばしば乱暴な性格ですが、自然の生命力、生殖力が神格化した存在です。
 つまり、愛の女神と生命力の神の力が結びつけば、一族繁栄のための子宝の恵みが得られる、はずなのですが。
 今回は勝手が違うようです。ウェヌスの寝所に入りこんだ醜く粗野なサテュロス。しかし、愛の炎を掻き立てるクピードーは眠り込み、ウェヌスにその気は全くないご様子。彼を指差し、洗練なき愛は願い下げとばかり余裕綽々、嘲りの表情をこの場面に遭遇した我々に見せつけます。
 どうもサテュロスに分が悪いようで、それともリベルタンにはサテュロスの力は邪魔だとでも。…一応のイタリア絵画に対してその解釈はちょっとフレンチかな(笑)
 あるいは、これを見る汝れもサテュロスだとでも言いたいのでしょうか。美女の上から蔑む目線によろこぶような殿方の気持ちは、さあ、わたしの空想の埒外ですが(笑)何だか伝統をまぜかえした屈折的な感じが面白くて、この絵の前でうっかりにやにやしそうになる。この絵の前では特に危ない。
 
 カリエラのパステルによるプリマヴェーラ。
carriera-Primavera.jpgロザルバ・カリエラ<ラ・プリマヴェーラ>
 何と言ってもこの時期のパステルの色彩。18世紀特有の、美しく白濁した色とりどりの灰色の、透き通らない心地よい不協和音。近くの真面目くさったカノーヴァの半分布で身を隠した裸婦やクピドとプシュケにもまだその18世紀のセンスの名残がある。ただし、彼女と違って大分罪深き「真実」に毒されている(←個人的主観)プレ・新古典主義。いや、彼はそもそも彫刻家と記憶しているけど。色々と大切なものを抑制して、塩っ気の混じった甘ったるさだけ残って。変に力むからいけないんだよ。カリエラみたく軽快ならば、甘さも素直だと思うのだけどねぇ。
 
 さて、大好きなカナレットのカプリッチョ(奇想画)。素敵なヴェネチアのヴェネチアらしいお土産絵画を旅行者に売りつけていた人。
 彼のヴェネチアの建物の微細を極めた描写は、画家本人の感傷や情念に淫することもなく、一方でただの記録に留まらない生き生きとした情感に富み、何かしらの思い入れは鑑賞者の側で自由に託すことが出来るし、そうすることを許してくれる。
 その画風そのままに、つまり現実の街を描くのと同じに描かれるカプリッチョは、現実にはない(しばしば再現が不可能な)建物の中へ鑑賞者を誘います。
canaletto-CapriccioConPortico.jpgカナレット<柱廊のカプリッチョ>
 大きく構図も凝って念入りになのに、ただそれだけの絵であって、この奇妙なポルティコの向こうには何ら教訓もない。
 
 
 世界はどこからともなく押し付けられた意味ある些末事にうんざりするほど溢れてしまっていて、意味のないもの、軽いものは我が精神にとりましてはとても貴重なものなので、まろりーはこの手の特別な意味を持たない絵を不当に高く評価します。そういう訳で本日のこの気まぐれなつぎはぎ(カプリッチョ)な記事それ自体にも何らの教訓もないのです、と無理矢理しめて、これを終えることとします。

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