先日、右のようなイラストを描いたけど、友人より分かりにくいとのご指摘ありまして、文学は畑違いながら、そもそも、大鴉は詩なので、繰り返される言葉のリズムや使い方、とくに大鴉では決め台詞の「Nevermore」の詩的な効果、文章の組み方を楽しむ作品ながら、まあ、まろりーの受け取った内容が分かるくらいの大筋だけは記事に載せておこうという心算。
ポーの大鴉の色々よいものを省略してしまっただいたいのお話。
「The Raven」
12月のある寒い夜、リノアが亡くなってしまった悲しみを紛らわそうと、僕は古い書物をひも解いて時を潰していた。
それでも、悲しみは消えない。
ふと、こんな真夜中に部屋の戸を叩く音がして、開けてみるけど誰もいない。ひょっとして亡くなったリノアではないかしら――そう思って名前を呼んでみても、ただ木霊だけが返ってきた。
今度は窓の鎧戸を叩く音が。この音の正体はなんだろう、きっと風の音に違いない――。僕は思い切って窓を開けた。
すると、さっと無遠慮に舞い込んできた大鴉。その姿はまるで神話から出てきたかのようで、しばらく僕の部屋を飛び回ったかと思うと、扉の上を飾るミネルヴァの胸像の上に王侯貴族みたいに動かなくなった。
その様子が、なんだか可笑しくて、思わず僕は話しかけてしまった。
「まるで冥界からやってきたような君、君はあの世では何と呼ばれているんだい。」
鴉は言った。「Nevermore.」
偶然とはいえ、この答えには驚かされた。この鳥の名は「Nevermore.」!
ところが、これ以外一向喋らない大鴉。
「君も明日には飛び去ってしまうのだろうね。かつて希望がそうだったように。」
鴉は言った。「Nevermore.」
さらに僕は驚いた。この鳥は以前人に飼われていて、その飼い主が何度も希望を失ったあまりに繰り返しつぶやいたのを覚え込んでしまったのだろう。「Nevermore.」という悲しい文句を。
なおも鴉は悲しみに沈む僕の心に微笑を誘うので、僕はドア飾りの上にとまる鴉の前へとソファを引きずっていった。そして僕はベルベットに身をうずめて、考えた。この神話の世界から来たような鳥が言う言葉の意味を。その言葉とは「Nevermore.」
ランプに照らされたベルベットのソファの背にもたれて、僕は思いを巡らすけれど、ランプに照らされたすみれ色のベルベットのソファの背に彼女がもたれることは、Nevermore.――もう無いんだ。
そう思った時、天使が来たような気がした。鈴のような天使の足音が絨毯に響いているような。
「神様が僕を憐れんで天使を遣わしてくれたのか。リノアを永遠に忘れる為の薬を持たせて。さあ、飲もう、安息の薬を。きっとリノアを忘れられる。」
鴉が言った。「Nevermore.」
「予言者め! お前は一体どうしてこの世に来てしまったんだ。――教えてくれ、この世に僕の悲しみを癒す薬があるのか、無いのか。」
鴉は言った。「Nevermore.」
「予言者め、さあ教えてくれ、悲しみを背負うこの魂が、遥かなエデンの楽園で、あの美しいリノアを抱きしめる日が来るのか――。」
鴉は言った。「Nevermore.」
僕は椅子を蹴って立ち上がり、叫んだ。
「この部屋から羽根も残さずさっさと立ち去れ! 僕の心からそのいやらしい嘴を抜いてくれ!」
鴉は言った。「Nevermore.」
鴉はじっと動かない。ランプは鴉の影を床に映しだしている。その大鴉の影から僕の魂が抜け出ることは、Nevermore.――もう無いんだ。
これ程、人を恍惚とさせる憂鬱もありません。Nevermoreという、かつてはあったけど、今はもう無いという上げて落とす的な全否定の単語が頭からもう二度と離れません(笑)
これを私はかなりえぐみの強い日夏耿之介の訳で初めに読んでしまい、英語からの正確な訳ではないようだけど、訳に使われた日本語の強烈さにすっかり魅了されてしまった訳です。難解な漢語と現代失われた旧字旧かなの醸す凄みと情緒は半端ない。
因みに、大鴉が好きなあまり本物のワタリガラスの写真を模写してしまったりとか。レイヴンという鳥はこんな感じらしい。
ワタリガラスの絵。
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