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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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4、クープランの第14組曲の鳥たち。鳥と愛の寓意。

前のページからの続き。

 このシテール島の鐘を含むクープランの第14組曲は、鳥たちの姿が多く描かれています。

   第 14組曲には以下の曲があります。恋する夜鳴きうぐいす(ナイチンゲール)、夜鳴きうぐいすのドゥーブル、おびえる紅ひわ、嘆くむしくいたち、勝ち誇る夜鳴きうぐいす、7月、シテール島の鐘、ささいなこと。

 鳥というのは、恋のメタファーとしてよく登場します。
 ヴァトー〈雀の巣を持つ男〉
 宝石とか貴金属とか、物質的な豊かさは持っていない羊飼い達の、素朴で典型的な恋人への贈り物が、鳥と鳥の巣。あとはりんごとかね。
 春に番を求めて囀ずる鳥たちは、まさに恋の象徴に相応しい。


フラゴナール〈幸せな恋人〉
 これはヴァトーの1世代後のブーシェを模倣した絵です。恋人同士の羊飼いの少年と少女。一方は鳥かごを掲げ、もう一方は鳥を持っています。

 …女性のスカートを膨らませる道具を「パニエ」って呼びますが、それの原義は「かご」。
 つまり、パニエの中に鳥が入るっていうのは、恋の成就を意味すると解せます。逆に鳥が死んでしまったりすると破局。
 

ジャン・バティスト・グルーズ〈小鳥の死を嘆く少女〉

 パニエが一般に流行しだしたのは、どうやらヴァトー晩年のことのようで、鳥と鳥かごは特に18世紀後半で好んで描かれました。伝統的な鳥のイメージに新しい風俗を乗っけて、最初に考えた人、上手いこと考えるなあ。
 クープランが鳥の曲を書いたときは、パニエはもう広まっていたのかな? ぎりぎりかしら。

 クープランの鳥の曲、聞けば小鳥たちの姿が結構写実的に描かれているなーと感じます。それにどの程度まで恋愛の象徴を読むかは、たぶん趣味の問題ですが…。

 冒頭の愛を乞うナイチンゲールに始まって、嘆いたり、勝ち誇ったり、怯えたり。
 個性豊かに歌う鳥たちに人間の姿を重ね、人間の恋愛模様を読み取ることは容易に出来ます。
 というよりむしろ、冒頭に「恋するナイチンゲール」を持ってくることで、以後の組曲をそのように読み取るよう示唆していると私には思われる。

 そこからのシテール島。

 で、遊びの愛じゃなかった、って締まるとハッピーでよくない?(多情な人(たち)が恋に一喜一憂してる様も読み取れるが! 最後に根本から混ぜっかえすと、不実な恋愛をカリヨンで祝福してくれる、浮気な宗教って解釈も出来ないでもない。・・・ふざけすぎか。

 シテール島の鐘の次の曲、この組曲の最後の曲は愛らしい「ささいなこと Le Petit-Rien」って、何この皮肉。
 シテール島について長々と喋ってきたことが、クープランさんにどーでもいいわ、って一言で片付けられた感(笑)
 事実なだけに傷つくわー。

 神話の島、はるかギリシアのシテールという時間的にも空間的にも壮大な含みのある曲の後で、ひょいっとささやかな曲で締める。
 恋愛には、こうしたどうでもいいことも含まれるのですって? それとも、シテールなんて絵空事はどうでもいいですって?

 どうだろうね。

 ま、結局作者が何を考え、誰がどう受容したかなんて、現代人には分からないし、分かったつもりになって終わりたくないものだけどね。

 私がこれが正しいに違いないと論じてるのではなく、ただ別の物語を紡いで遊んでるだけだから、それだけは強調したい。
 なんというか…結局のところ、この曲から私が感じ取った雰囲気を文字化しようとしたら意外と長文になってしまったエッセイでした。うん。我ながら回りくどい。


 ところで、これは完全に個人の想念に関わるもので、まったくシテールの鐘とは関係ないことなのですが。

 私が、ヴァトーのシテール島で連想するクープランの曲は「シテールの鐘」以上に「波」だったりする。

 だからクープランの「波」はシテール島へ行く船の立てる波なんだよ!(大嘘)

 ところで、この動画…おちゃめで笑っちゃうんだけど…ちょいちょい挟まれる演奏者さんの夏の思い出みたいな…盛り上がりどころで頑張って映像でも盛り上げようとしてるところとか…波間から出てきてじわじわ浜辺のカップルに寄ってくるクープランとか…。映像が気になって音楽聞こえないし…!(笑)

 クープランの「波」。標語は優雅に、遅くなく。
 特に第3クープレではっきりと田舎の楽器、ドローン楽器の模倣によって田園が想起され、右手と左手が長3度でユニゾンします。

 田園。牧歌。アルカディア。はたまたシテール。

 黄金時代の空気を残す理想郷であり、人間と自然が調和するエデンの園の名残であり、自由で穢れなき恋愛が行われると設定される舞台。

 このあたり、一緒にシテール島へ行きませんか?って囁かれてる気になるよね!(幻聴です)

 で、「波」の拍子は8分の6拍子。
 ほら、なんか島っぽいというかゴンドラっぽいというか船っぽいというか舟歌っぽいというか。
 これはアナクロニスムなのかな(笑)


おわり。

-------目次-------
1、クープランの第14組曲<シテール島の鐘>への違和感。
2、そもそもシテール島とは。ヴァトーのシテール島の解釈いろいろ。
3、続ヴァトーのシテール解釈。結局シテール島へ行くのか、帰るのか。
4、クープランの第14組曲の鳥たち。鳥と愛の寓意。
※ 、カリヨンって何?2人は仲良し?ヴァトーの唯一の?チェンバロ絵が大好きだ、など。

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