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○なんせんす・さむしんぐ○

美術や音楽の感想とか、動物中心のイラストのブログ。

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アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち展感想 後編

●第3章 3人の巨匠たち
 大きな山場が終了して、次からはヤコポ・ティントレット、パオロ・ヴェロネーゼ、ヤコポ・バッサーノのコーナー。

 緋色の壁紙は打って変わって、軽快なパステルミントグリーンの壁紙。
 その時代は16世紀半ば。1530年から40年代、マニエリスムに影響されています。

 劇的な明暗表現で大作を手掛けるティントレット。
 華麗な色彩と古典的な格調のヴェロネーゼ。この二人はヴェネチアで活躍します。
 一方、バッサーノはヴェネチアの内陸領土で活躍。叙情豊かな田園風景で、ヴェネチアや外国の宮廷でも人気を博したそうです。

 ティツィアーノ後の代表格を思う様見比べられました。

 もし私がパトロンだったら、個人の楽しみの注文はバッサーノ、対外用に人に見せつける絵なら優等生的なヴェロネーゼにしよう。
 今回、ティントレットは、ちょっと格下げしました(笑)

 ティントレット、割とショッキングだというか……。一番アレな意味で印象に残ったのが、ティントレットの動物の創造でした。

ヤコポ・ティントレット<動物の創造>
 いや、これ、私の見方が何か間違っているんだろうか? 正直見ててすっごい不安になる(笑)

 右から左へ駆け抜ける動物たち。何この無駄な疾走感。
 画面中央で、海を指差す神様が劇的な身振りで浮いてるのがティントレット節。
 でもちょっと雑なのよ……。下書きって思うくらい。鳥とか超適当。

 そんな風に鳥は飛ばないよっていう前に関節とか骨格とか丸無視の、このぶらぶらでぐにゃぐにゃのゴムみたいな足とか、いや、この嘘でしょってくらいの作画崩壊なんだろう?
 漫画みたいで全部同じポーズ。
 海の魚も非常にグロテスクな怪物魚。そいつらが全部左向きで同じポーズ。
 えーまさか人間上手いけど動物描くのは駄目ってよくあるパターンなのかな。それとも値切られて手抜きしたとか?
 神様が手ずから作った動物、こんな崩壊してたら、冒涜レベルじゃない?
 周りのゆるキャラたちが気になって、神様が目に入ってこないし、動物の創造って主題も頭に入ってこない。

 ただし愛嬌は抜群で、私はこのへんてこ動物たちのお土産グッズがあれば、欲しかった(笑)
 人は完璧なものは畏怖こそすれ愛さない、本当に愛するものは、不完全なもの。っていう典型かも(笑)
 

 隣に展示されてるティントレットの同シリーズのアベルの殺害はドラマチック。安定のドラマチック。

ティントレット<アベルを殺害するカイン>
 力いっぱい相手を押さえつける殺害者の顔は影になって、その表情を読み取ることは出来ない。上手い演出よね。
 殺害されるアベルも、顔は後ろ向きで見えない。抵抗してよじる体が暗色の背景に浮かぶ。傍らには不吉に転がる鹿の首。

 陰惨な人類初の殺人事件の後で、バッサーノの描く、牧童たちのいる里山のような小さな風景画にほっとする。
 眠る牧童と、もふもふの休息する羊たち。
 画面は少し暗い。バッサーノはどれも、広野の聖ヒエロニムスなども、それくらいの暗さだった。

 同じくバッサーノのノアの方舟 。

ヤコポ・バッサーノ<ノアの方舟に入っていく動物たち>
 方舟に乗り込もうとする動物たちで、地表は埋め尽くされている。動物が得意なバッサーノの、動物を沢山描く口実のようだ。

 ティントレットはバッサーノを見習えばいいのに。それか初めからバッサーノに頼めば良かったのかも知れない(笑)

 場面はライオンのつがいが方舟に昇るところ。周りで乗船を待機する動物たちは、生き生きとして、結構正確。少なくとも興味や愛情を持って描かれています。犬も猫もウサギも羊も、普通で可愛い。普通で、ってティントレットまだ引きずってる(笑)
 お猿さんが荷物の上で杖を持ってるのがお茶目。時々、動物好きの画家って、半分擬人化された賢いお猿さんを描く気がする(笑)

 完全に個人的な好みで、動物に興味や共感や愛着があるような画家は好きなのよ。

バッサーノ<母羊と子羊>
 これはバッサーノの絵を検索したら、バッサーノの絵ということで出てきたやつ。
 バッサーノ、いいなあ!


●第4章 肖像画
 今までは、神話や聖書の人物などの空想の人物でしたが、もちろん肖像画も主要な画題です。

 展示された人たちのお洒落なお洋服が楽しい。
 マルコ・バザイーティの男の肖像。襟元の毛皮が白と黒で十字に切り返してあって、白いファーと黒いファーを交互に配する柄にしてある。

 リチーニオの、女性のベルベットに赤い服もドレスも素敵。
 別のリチーニオの女性の肖像は、バルツォ帽を被っている。……イザベラ・デステが被っているあのお饅頭みたいな帽子はバルツォ帽というのか。イザベラ・デステのせいか、流行ったそうです、バルツォ帽。
 首を傾け、流し目でこちらを見る。ちょっとティツィアーノを彷彿とさせる視線。
 白に近い金の髪の毛は、根元だけが少し黒くなっていて、白く脱色してるのでしょうか。

 カリアーニの男の肖像は美しい。一番のイケメンさん。

カリアーニ(ジョヴァンニ・ブージ)<男の肖像>
 気高く空をみつめる髭の男、明後日の方向を凝視しています。豊かな髪を肩まで伸ばし、緩やかなシルエットを描くたっぷりとした黒服は、絵に存在感を与えています。手はやや小さく描かれているけれど、人差し指を伸ばした手を胸にあてて、その仕草は何か語ろうとしている。

 その辺で、多分覚えられない(笑)服飾専門用語を拾う。のでメモφ(..)
 ドージェの肩マントはバヴァーロ。帽子はコルノ。イザベラ・デステの帽子はバルツォ帽。

 ついでにメモ。
 ヤコポ・ティントレットの息子はドメニコ・ティントレット。ヤコポ・バッサーノの息子はレアンドロ・バッサーノ。ヤコポ・バッサーノの師匠はボニファーチョ・ヴェロネーゼというが、この人はヤコポ・ティントレットの盟友(?)パオロ・ヴェロネーゼとは関係が無いようだ。……似たような人物名が……。


●第5章 ルネサンスの終焉
 さて、そんなヤコポ・バッサーノの息子、レアンドロ・バッサーノ。ヤコポの三男坊。
 ダイナミックなルクレティアは目を惹きました。

レアンドロ・バッサーノ<ルクレティアの自殺>
 漆黒を背景に、貞淑なルクレティアは、胸を大きくはだけ、今自ら短剣で胸を刺すところ。
 豪華な衣装は、まるで実際に金糸で刺繍をするかのように微に入り細に入り、布の質感と金糸の輝きが見事です。


 展示の最後はティツィアーノを模倣したパドヴァニーノ。

 名前の通りパドヴァの生まれ。後にヴェネチアに拠点を写し、ローマ旅行で初期バロックに触れる。
 最新鋭のローマのバロックを、ヴェネチアの色彩感覚と融合したということです。

 プロセルピナを拐うプルートー。ヴァイオリン背負ったオルフェウスと冥界に戻ろうとするエウリュディケ。

パドヴァニーノ<オルフェウスとエウリュディケ>
 黒い背景に柔らかい輪郭。とくに女性の入念に仕上げた柔らかい輪郭は印象的でした。

 また、きれいな顔の天使たちが死せるキリストを哀悼する、真っ当に綺麗な絵。最後のこれが特に気に入りました。

 でもごめんなさい、この絵はちっとも有名でないらしく、検索で拾えませんでした。

 キャプションには、ボローニャ派のカラッチ一族に近い画風、という解説がありましたが、なるほどと思う。

 ローマ・バロック+ヴェネチア派=ボローニャ派、分かる気がする(笑)(あくまでも気がするだけ)
 ティツィアーノの「色彩の錬金術」の遺風と、ローマバロックのシンプルさとリアリズムが合わさると、自然主義と理想化の絶妙なバランスを取ってくるボローニャ派に近付くのか~。

 バロック好きの私としては、一番名前を覚えておこうと思った画家でした。

 重要な画家の1000枚の絵を載っけてある辞書的な本には、パドヴァニーノ載ってませんでしたが!

 本名はアレッサンドロ・ヴァロターリ。
 ウィキペディアによれば(笑)、どうも同時代に名声はあったが、ティツィアーノの模倣者として、弟子を育て、17世紀までティツィアーノのスタイルを保持し続けた画家という評価のようだ。
 オリジナリティを重んじる価値観からは、模倣者に留まり、創造的な画家ではなかった、ということかしら。

 でも天使の絵は、普通にシンプルで優美で綺麗で好きだけどなぁ。
 後のヴェネチアにとって、ティツィアーノは偉大過ぎたのかしら。

 そういえば、18世紀のイギリスの代表的な画家、ジョシュア・レノルズが、まあ18世紀の古典主義的価値観でヴェネツィア派を断罪していたっけ。
 ヴェネチア派は美しく優雅だが、華麗で技巧的な色彩と官能性が人を眩惑し、若者を堕落させ、正しい芸術の道から逸脱させてしまう。
 とかそんな感じ。

佐賀大学文化教育学部研究論文集
ジョシュア・レノルズ卿の講話集 : 翻訳と注解 第4講話 相沢照明訳参照。

 …そんなにヴェネチア派が嫌いかい。

 パドヴァニーノはそういうタイプのヴェネチア派なのかしらん。
 ウィキペディアでは、「物語性と官能性に特徴あり」だってさ。

 因みに、レノルズ、まさかヴェネチア派の親玉をディスるのかとドキドキ期待(笑)してたら。
「ただし、ティツィアーノだけは別格だ。」 
 ず、ずるい…!(笑)

 ともあれ、最後に、ほぼ普通のバロックな感じのパドヴァニーノを見て、ヴェネチア絵画のルネサンス以降の行く末も気になっているまろりーなのでした。


おまけ 
 私がこの展示を見ての疑問を見透かすように、どんぴしゃな本がアマゾンで売ってた。
「Da Padovanino a Tiepolo」
 あ、やっぱり気になる人いるんだ。なんか嬉しい。
 興味深いが、イタリア語の本らしい(*_*)


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