一番の感想は、このお金持ちめ…!
とにかく、展示を通して分かること。
資産家に生まれ、画家になるも、絵で生計を立てる必要が無かったために、積極的には自作の絵を売らず、仲間の印象派の作品を買ったり、展覧会開催の資金を提供するなどして金銭的に援助し、夏になるたびに別荘へ行き、趣味のボートに熱中し、大会にも出て、果ては大きなヨットを自分で設計・制作し、また田舎に別荘を買い趣味のガーデニングに没頭し、弟も音楽家になったが、あまり活動せず、兄と趣味を共有していた…という。
…兄弟でお金稼いでる気配が無い…!?
そんなんだから、絵も趣味の一環で画家というよりは、印象派のパトロンとして先に評価されてしまった、というのがカイユボットさんのようです。
画家としての評価が高まったのは本当に最近のことらしく、「芸術家と言えば周りからなかなか理解されず社会の価値観と戦い常に貧乏で金銭的にも精神的にも苦労する」みたいなイメージ像からかけ離れてしまっては、無理もない。(過言)
さて、そんなカイユボットの自画像で展示の幕は開きます。
…育ちが良さそうな顔立ちだな。
晩年の肖像画もあって、セザンヌの自画像と比べることが出来ます。印象派に組するカイユボットは、セザンヌに比べるとより現実をリアルに写そうとする傾向があるのが分かります。
家族の食事の様子を描いたものには、早速に金満家ぶりが発揮されています。

〈食卓〉
広い室内、陽光がレースのカーテンに透ける大きなフランス窓、見事に磨かれた高級感溢れるテーブルに映る窓の光と食器、ナイフとフォークでお行儀良く食事する弟、かしずく執事。
まあ、そんなお金持ちっぷりのことは一旦忘れましょう。うん。
食器の乗るテーブルの描き方がちょっと変わっていて、テーブルの手前側は真上から見下ろしているけど、奥に向かうにつれ視点が下がって斜め上からの視点になっている。
つまりオランダ絵画とかのような単純な透視図法ではないようです。多分、このテーブルに座っている人=カイユボットの視界を再現しているらしい。そこでは自分のお皿は真上から見るけれど、向かいに座る人は横から見ることになる。
この絵の真の主役は、人間たちというより丁寧に描写してある窓からの光線で黒光りするテーブルの輝き。
この時期に、こうした反射光を研究したようで、先のドビュッシー展でも展示されていたピアノを弾く弟の絵も、一風変わった遠近感とピアノに映りこむ窓からの陽光と白い鍵盤とピアニストの手が、食卓の絵と共通している。

〈ピアノを弾く男〉
ドビュッシー展のとき、このピアノのロゴに見覚えがあるなあと思っていたら、エラールのピアノだと明記してありました。
で、この絵の傍らには本物の時代物のエラールが鎮座していたのでした。
おー、絵の中のピアノと、その大体同じようなモデルのピアノを見比べられるのは面白い。脚の形やロゴが絵と一緒。
そういえば、カイユボットといえば床を削る人の絵。あれも窓からの陽光とそれを反射する床、削りたての反射しない床とを描いていて、食卓やピアノと同じ興味なのかも。

〈鉋をかける男たち〉
かなり面白かったのは、観覧者の参考にと掲げられている画家の年表。
こういう事実は調べたければあとで調べればいいし、と普段はそんなに見ない。
でも、このカイユボット年表、液晶パネルで出来ているのです。
数秒ごとに年表の文字がマーカーされたように緑に光り、年表中央の余白に次々とその時期の関連する作品が現れる。年表に別荘地を購入、とあったらその別荘地の庭園の風景を写し出したり。やっぱり動画というのは見てしまうように人間出来ているのでしょうか。
続く順路は都市の風景。この頃のパリは、狭くて暗くてごみごみして汚いと大評判だった街並みから、今見るような美しい街並みへと大改造をしていたのでした。
カイユボットの弟(確か)が撮った写真には、屋根を架けている最中らしいモンマルトルのサクレ・クールも映っている。

〈ヨーロッパ橋〉
目玉のヨーロッパ橋。室内画で見せた何だか凝った遠近法が顕著です。
多分、カイユボットは光の反射とちょっと凝った遠近法に興味があるんだなあ。

〈パリの道、雨〉
雨の日のパリ。幾つにも放射状に枝分かれした例のパリ的な大通りの景観。建物の水平線もあちこちに伸びています。
黒いこうもり傘を差して歩く人々。曇天の白い光を反射する石畳の道。
真上からみた街路と街路樹とか。きっと最新式のアパルトマンの上階から見下ろしたんだ。
臨場感のある視点へのこだわりは、趣味の船の絵でも発揮されています。
二人乗りのボート? 視点は低く、ちょうど船に座った高さ。目の前でおじさんが漕いでいる。
左:〈ボートを漕ぐ帽子の男〉右:〈イエール川でボートを漕ぐ人〉
色も面白くて、低く視点に広がるターコイズブルーの川面に、鮮やかなオレンジ色のオール、その波立つ反射。殆ど補色同士でお互いの色を引き立てあっています。
パリ近郊の田舎に土地を買ったカイユボット。
その近くの風景を描いた絵が、こういうの超好きです。
晴れ渡る空の下、とってもフランス的な平原、お花の絨毯が広がっている。
お花が好きというガーデニングの趣味も、作品に反映したようで、壁紙のように装飾的な花の絵は、どうやら別荘の壁を飾る目的かと思います。
折り重なって伸びる緑の葉と、ちょうど良く配置された白い菊の類の花、透明感のある青の影。僅かなな違いのバリエーション4枚かかっていました。
これは、やっぱり純粋に趣味かも知れない。
何か凝った遠近感を構成する今までの画風とは全然違う。ずっと奥まで見通せたヨーロッパ橋と違って、遠近感は極めて浅く、お花と葉っぱの重なり方が分かる程度。
もちろんいつもと違って壁を飾るという目的が第一にあって、視覚の実験的なものではないけど、こういうのもイイネ!
はてさて全体的に…カイユボットさんの絵をこんなに沢山初めて見て、彼の裕福な人並み以上の暮らしには嫉妬を禁じ得ないが、結構面白い絵じゃない。もう一回、別のカイユボット展第二段とかあったら、リピートしちゃう。
そして、今は公園として一般に開放されてるというカイユボットの広大な庭をもつパリ近郊の別荘もちょっと行ってみたい。
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