記憶が薄れないうちに・・・(←日がたつと薄れそうだという自覚がある)
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ生誕(没後だったか)400年記念の映画で、カラヴァッジョなら!という訳で、思い切って行ってきました。
うっかり時間に遅れそうになって、銀座の町を同伴者様と疾走。全力ではなかったとはいえ、久々に長距離走りました。ヒール履いてなくて本当によかった(笑)
さて、前提として、まろりーは映画通じゃないことを明記しておく必要がありますが、以下感想。
主な感想は、「・・・バイオレンスだったな・・・」
とりあえず、描写が痛い!
麻酔なしで傷口縫ったり、傷口を焼いて塞いだり、素手で石壁殴ったり、人間を火焙りにしたり、首落としたり・・・。精神的にも牢獄に入れられたり、マラリアの熱に苦しんだり・・・。
色々と生傷の絶えない映画でした。
史実のカラヴァッジョは喧嘩早くて結構バイオレンスな人なので、さもありなん、でしょうか。

<洗礼者ヨハネの斬首>
↑カラヴァッジョはバイオレンス結構好き。
また、ヴァッジョだけでなく、バロック芸術全体はバイオレンス表現がけっこう好きだし、ヴァッジョの絵も鑑賞者に画中の人の感覚を想起させるので、映画でもそういう効果を狙ったものと解釈します。
しかし、トカゲに噛まれる人は、あんまり実写で見たくなかったな…(笑)

<蜥蜴に噛まれる少年>
そもそも蜥蜴に噛まれる感覚もそうだけど、カラバッジョの男色への興味ありげな描き方が何となく気持ち悪い感じがちょっとしていただけに、映画でそれを生っぽく表現されると・・・。ああ、いや、カラヴァッジョ作品への解釈ってやつですよね・・・。
まあ、そんな風に、カラヴァッジョがいかに空想ではなく、モデルを使い、実際の経験で作品を作っていったか、という趣旨の映画です。
当時はモデルを使うより、頭で構成し直して理想的なデッサンにするというのが当たり前の作画の姿勢だったので、それをもっと現実に即して描くカラヴァッジョは革新的だったとう訳です。

<果物籠>
上の絵の説明書きにはどんなものでも常に「果物の虫食いの穴、枯れた葉まで描いて理想化しません」とあります。
その結果、聖人を描くにも実際に俗界に普通に暮らす人(聖人から見れば、卑しい人々)をモデルにしてそのまま使うので、聖人が聖人らしくない、娼婦や酔っ払いと同じ顔で描くなんて冒涜じゃないか、なんてカトリック保守派の眉をひそめさせたり、保守派の権威的な画家からも、汚い、卑しい、優美でない、などと批評され確執があったりするのです。
そんな感じで映画は、名画誕生秘話、ヴァッジョの恋愛、いさかいなど小さなエピソードの断片を細切れに繋げた印象。
ちょっと荒っぽい感じ。個々のエピソードには軽く触れるくらいだから、もっと立ち止まってじっくり見せてほしいなーと思いました。
もっと楽しむためには、カラヴァッジョの年譜、当時のイタリアの全体の情勢、イタリア各地の勢力関係などを鑑賞者がよく把握していないとなりません。映画での説明は足りないので。
まろりーとて、そのへんの普通のおば様よりかはカラヴァッジョ周辺のことを知っているつもりですが、結構知識不足で難しく感じた。
音楽も・・・16世紀初期バロック!みたいなのちょっと期待していたのですが、大体普通に普通の映画音楽だった。雰囲気付けの古楽サウンドみたいなの取り入れてはいたけど。
映画の値段にはちょっと吊り合わないと思う。
一緒に見てくれる人が居て本当に良かった。一人で行ったら、鑑賞後の微妙な納得のいかなさを論じる相手がなくって、もやもやして帰るところでした(笑)
好きだった断片は以下。
・ベアトリーチェ・チェンチとすれ違う。
ちょっとドリーム過ぎると思うけど(笑)まあ、ドリームだから。
馬車に乗って鎖に繋がれたベアトリーチェ・チェンチという女性と2、3会話するカラヴァッジョ。
ベアトリーチェ・チェンチといえば、これ。

グイド・レーニ<ベアトリーチェ・チェンチ>
グイド・レーニが処刑直前の彼女を描いたという美しく同情に満ちた作品。
しかし、チェンチ家を巡るこの騒動、ベアトリーチェが処刑されるに至った経緯とか、うろ覚えなんだけど・・・。死刑に相当する罪を犯したけど、仕方なくって話だったと思うんだけど・・・。もっと映画の中で丁寧に説明して欲しかった。勉強不足だ、後で自分で調べろってことですか。
・お偉方とカラヴァッジョの会話
お偉方「詩人はペトラルカとタッソーのどちらが好きですかな?」
ヴァッジョ「レオナルド。」
えーペトラルカとタッソーの話もっと聞きたいです!(笑)タッソーは1つ読んだけど、ペトラルカは断片的にしか知らないのです。
・お偉方とカラヴァッジョの会話
お偉方「彫刻に比べて絵画が優れているという根拠をひとつ。」
こういう諸芸術の比較をイタリア語で「パラゴーネ」といい、ルネサンス期に大流行したのですが・・・。
生パラゴーネすごく聴きたいです!
というか、無責任に参加したい(笑)もうちょっと芸術論について、我らがミケーレに語らせてもよかったんじゃないかなー(自分の趣味としては)
・枢機卿がいっぱい
枢機卿って格好良い。まろりー、コスプレするなら、アビ・アラ・フランセーズか、枢機卿がいい。教皇よりは枢機卿が格好良い。
というか、枢機卿の格好をした聖ヒエロニムスかな。というか聖ヒエロニムスみたいな書斎が欲しい。



左;クリヴェリ<聖ヒエロニムス>、中央;ルーベンス<聖ヒエロニムス>右;ラファエロ<教皇ユリウス二世の肖像>


左;アンドレア・ダ・メッシーナ<書斎の聖ヒエロニムス> 、右デューラー<書斎の聖ヒエロニムス>
・ゴリアテの首と俳優が似ている
ダヴィデの持つゴリアテの首はカラヴァッジョの顔になっているのですが、そのゴリアテに俳優さんがよく似せてあって、そういうのは良い。

<ゴリアテの首を持つダヴィデ>
この絵のエピソードのために罪人が首を斬られて公開処刑されるのをカラヴァッジョが見ているというシーンを入れたのだろうけど、まさか本当に首が落ちる場面まで描写するとは思わなかった。しかも3回も繰り返して強調して。このシーンは結構、観るの辛かったな(苦笑い)
・あと、カラヴァッジョ系の絵に出てくるおばあちゃんが似ている。
そういう小ねた好きです。 ↓おばあちゃんに注目!(笑)


左;カラヴァッジョ<巡礼の聖母>右;カラヴァッジョ<ホロフェルネスの首を斬るユディト>


左;テル・ブリュッヘン<相続権を売るエサウ>右;バビューレン<取り持ち女>
だいたい、「呪われた画家」ストーリーですが、見も蓋も無く言えば、恵まれたパトロンの支援を潰して野垂れ死にするに至ったのは、全部自分の抑制の利かなさのせいです。同情は出来ません(笑)
ラストシーンは黙示録の騎士的な真っ黒な人馬が走りよってきて、それから逃げようとしてばったり。
ありがちながら、生生しくなくて好きだけど。
でも、迫真のリアリズムの画家が死に際にだけそういう夢見がちな幻覚の中で死ぬっていうのは、ちょっと違和感もある気がしないでも。